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粒でできた世界/空気は踊る [著]結城千代子、田中幸 [絵]西岡千晶

[評者]佐倉統(東京大学大学院情報学環長・科学技術社会論)

[掲載]2014年10月26日

[ジャンル]科学・生物

表紙画像

■科学の驚異を再現する挑戦

 科学は、世界の見方、ぼくたち自身に対する見方を変えてくれる。驚きをもたらしてくれる。コペルニクスの地動説、ガリレイの等速落下、ダーウィンの進化論……。
 でも今では、これらは中学高校で習う、当たり前の常識と化している。それゆえ理科の授業は、「すでにわかっていること」の暗記に追われ、自然への畏怖(いふ)とは無縁の時間になってしまった。
 そこをなんとか工夫して、科学が世界の見方を一変させた驚きをもう一度再現しようと挑戦し、見事に成功したのが、この2冊だ。
 その方法は、簡潔で明晰(めいせき)な文章とイラストの組み合わせという、正攻法である。だが、どちらも水準が高い。
 イラストは、「科学」という言葉から連想しがちなのとは正反対の、童話調の線画。これで科学の表現の幅が、ぐんと広がった。そして、説明したい点を強調できるという、写真にはない利点を存分に活用している。たとえば『粒』の冒頭、一枚のイラストを描き方を変えて再掲することで、世界は粒(=原子)でできているという話につながる。引き込まれる導入だ。
 一方の文章は、丹念に彫琢(ちょうたく)されて、簡潔さと明晰さを極めている。科学現象の説明には論理が不可欠なので、その驚きの真髄を表現するには映像や瞬間芸だけでは限界があり、文章がとても重要だ。しかし、「科学的な」文章が足を引っ張るというのも、よく見られる現象。この2冊は、印象に残る具体例の選定にも成功して、その難関を見事にクリアした。
 さらに本の体裁。判型は小型、厚さは100ページほどの薄さ。手触りも絶妙で、用紙の選択にもこだわった跡がうかがえる。書物というメディアのパッケージの特性を最大限に活(い)かし、本ならではの表現形態を結晶化させた。
 小さいけれども、いや、小さいがゆえに、いつも手元に置いておきたい2冊である。
    ◇
 太郎次郎社エディタス・各1620円/ゆうき・ちよこ、たなか・みゆき 科学読み物の執筆・翻訳を一緒に手がける。

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