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磯崎新インタヴューズ [著]磯崎新、日埜直彦 挽歌集―建築があった時代へ [著]磯崎新

[評者]隈研吾(建築家・東京大学教授)

[掲載]2014年11月02日

[ジャンル]アート・ファッション・芸能

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■日本を世界化した謎解く戦後建築史

 磯崎新は戦後日本を代表する建築家の一人である。戦後第一世代と呼ばれる丹下健三が、東京オリンピック、大阪万博を頂点とする戦後復興に形態を与え、磯崎、槇文彦、黒川紀章らの第二世代が、高度成長期の日本建築を、世界レベルにひきあげた。その結果、日本の建築デザインは、今や世界をリードしている。
 高度経済成長と公共建築主導のケインズ政策が原因というより、磯崎の魔術的な手つきが、日本の建築デザインを「世界化」したのではないか。『インタヴューズ』を読んで、戦後建築史の謎が融解した。
 建築家は、アーティストの手法に学ばなければ、20世紀を支配した官僚主義、技術主義、グローバル資本主義の中で消滅していくと、磯崎は世界でいちはやく気づいた。建築家だけではなく、建築という文化自体が消滅していくと、彼は見抜いた。アーティスト的手法の詳細は本書に詳述されるが、それは一種の過激主義であり、単純な造型原理を抽出して、それを激化する方法である。対立する2派があったなら、両者とも否定し、対立の枠組み自体に揺さぶりをかけるのが、アーティストから学んだ磯崎流のケンカ術だった。戦後日本の建築界のみならず、日本文化全体がこの手法で揺さぶられた真相も語られる。
 この手法は、既成左翼が失速した戦後史にも、ぴったりはまった。日本の若い建築家はすべて、磯崎に励まされ、「過激な自分」が社会に受け入れられないことが、反体制の証明であるという、都合のいいエクスキューズも手に入れたのである。
 全共闘産(う)みの親といわれる吉本隆明や、新左翼自体への共感も言及され、柄谷行人、浅田彰と親交する磯崎とは別の、独自な思想的な立ち位置の発見もあった。
 磯崎の方法は、日本の若い建築家を鼓舞し、アーティスト化しただけでなく、世界中の建築家に対しても、多大な影響を与えた様子もうかがえた。すさまじい磯崎のオルグによって、世界中の建築家が、アーティストへと変身したのである。そして見事にアーティストとしてのキャラの獲得に成功すれば、世界資本主義に拾い上げられ、一夜にして、世界を飛びまわるスターとなる。アーティスト建築家が、実際のユーザーや環境に貢献したかどうかは別の話だが、それを意に介さない磯崎の大物ぶりも爽快である。
 この「世界のイソザキ化」——社会の全員のモンスターアーティスト化は、既成左翼解体後の人々の不満、不安を吸収して加速し、建築界のみならず、文化、政治、経済界にも吹き荒れたように、僕には読めた。建築史というよりも、ひとつの戦後史であった。
    ◇
 『インタヴューズ』LIXIL出版・3780円/いそざき・あらた 31年生まれ。建築家。建築作品に水戸芸術館など。 ひの・なおひこ 71年生まれ。建築家。編著に『手法論の射程』など。
 『挽歌集』白水社・3024円/丹下健三、吉本隆明ら50人への追悼集。


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