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感情労働としての介護労働―介護サービス労働者の感情コントロール技術と精神的支援の方法 [著]吉田輝美

[評者]水無田気流(詩人・社会学者)

[掲載]2014年11月02日

[ジャンル]医学・福祉 社会

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■介護職への無理解の解消を

 「超」高齢化の進行する日本で、介護職の担い手確保は焦眉(しょうび)の急である。その一方、介護職の離職率は2割程度と他の職業と比較して非常に高い。理由としては、低賃金や社会的地位の低さなどが指摘されるが、それ以外にも根本的な問題が横たわる。この仕事の「感情労働」としての側面への認識不足である。
 感情労働とは、従来の肉体労働や頭脳労働に対し、自己の感情管理によって他者の感情に働きかける仕事といえる。この目に見えない感情作業は、これまで賃金を得るための労働とはみなされてこなかった。代表的なものが、家事労働である。家庭という私的な場で、心からの笑顔を見せ、家族に対し疲れた顔を見せないこと……。周知のように、これは主として女性に期待される労働である。
 家事労働から社会分業化したものが保育士や看護師、さらに介護などケアワーク全般といえる。これら「女性向き」とされる職業は、高度な感情労働が必要とされるが、報酬も評価も高くはない。背景には、女性ならば誰もが自然に高い感情管理能力が備わっていてしかるべき、との社会通念があるからだ。この無理解こそが、感情労働従事者の高いストレスの源泉である。
 本書の調査によれば、実に介護労働者たちの9割が、利用者とのかかわりの中でストレスを感じているという。暴言など否定的発言により傷つき、ストレスを溜(た)め、やがて無力感から「バーンアウト(燃え尽き)」して離職に至ることを防ぐためには、深層の感情が傷つかないよう高度な感情管理技術が必要だ。さらに、保育士や看護師と異なり、介護職には終期が見えない。それゆえ、他のケアワーク以上にこの技術が必要との指摘は重要である。著者の述べる「人を幸せにする職業に従事する者が、その仕事を通してみずからの幸せを体験できない」不条理が、正されることを切望する。
    ◇
 旬報社・5400円/よしだ・てるみ 養護老人ホームの介護員などを経て現在は昭和女子大学准教授(社会福祉学)。


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