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葉巻を片手に中南米 [著]渡邉尚人

[評者]三浦しをん(作家)

[掲載]2014年11月09日

[ジャンル]文芸

表紙画像

■文化の豊饒、ほとばしる葉巻愛

 本書の著者は外交官で、三十年以上、中南米諸国で勤務している。そのあいだに出会った人々との交流、現地の文化や特産品などを、ユーモアたっぷりに紹介した本。写真も多く掲載され、「行ってみたいなあ」と読んでいてわくわくした。
 特筆すべきは、著者が葉巻愛好家であることだ。喫煙者は肩身が狭い昨今だが(それは中南米でも同様らしい)、「葉巻は紙巻きとはちがう! もっと奥深い嗜好(しこう)品なのだ!」という著者の葉巻愛がほとばしっており、熱い、熱すぎる一冊となっている。なにしろ著者は、標高二八五〇メートルの高地でも(息をするのも苦しい環境なのに)葉巻を吸うのだ。ちなみに、この標高でゴルフをすると、空気抵抗が少なく、ボールがよく飛ぶのだそうだ。著者はといえば、「あらぬ方向に」ボールを飛ばしまくるのであった。
 本書の内容は、「外交官としての中南米での活動」から次第に逸脱していき、「葉巻のたしなみかた」へと眼目が移る。葉巻の箱を開け、その香りを楽しむあたりの描写など、まさに恍惚(こうこつ)といった感があり、「まだ吸ってもいないのに……」とあまりの葉巻愛に爆笑した。だが、著者はあくまでも真剣かつ真摯(しんし)だ。葉巻の歴史や文化の豊かさ、葉巻を通して現地の人々と仲良くする様子を読むうちに、こちらも俄然(がぜん)、葉巻に興味が湧いてくる。葉巻というと渋い男性の嗜好品といったイメージがあるが、中南米では女性も吸うのだそうだ。
 葉巻以外にも、マテ茶や銀細工など、楽しくうつくしい中南米の文化に詳しくなれる。その土地が生んだ文化に親しみ、現地のひとと同じように満喫する著者の姿を見て、「食わずぎらい」は愚かしいことだなと痛感した。葉巻は、人々が互いに通じあい、同じ時間を味わいあうために生まれた。世界の多様性と、文化の豊饒(ほうじょう)について思いを馳(は)せさせてくれる本だ。
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 山愛書院・1620円/わたなべ・なおひと 56年生まれ。在ウルグアイ日本大使館参事官。

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