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傲慢な婚活 [著]嶽本野ばら

[評者]水無田気流(詩人・社会学者)

[掲載]2014年11月09日

[ジャンル]文芸

表紙画像

■自意識をめぐる百花繚乱の物語

 人間の自意識が極限まで引き伸ばされると、壮絶なラブコメになってしまうらしい。赤裸々を超えた露悪性を開示する主人公は、44歳のノイジシャン。あえてくくれば音楽家だが、文字通りノイズを鳴らす前衛芸術家である。それで食べていくのは難しく、以前書いた小説がいきなり芥川賞候補となったこともあり、文筆家としての知名度のほうが勝っている。もっとも、最近ではそちらも落ち目気味だ。
 その彼が、長年パトロンだった「ママン」に死なれ、彼女に住ませてもらっていた高級マンションを追われる羽目に。部屋探しをするものの、自らの社会的信用のなさを思い知らされ、パトロンになってくれる結婚相手を探し始める。条件は、美少女で、金持ちで、同居しなくてもいいというひどく都合の良いもの。だが突如、なぜかそんな理想の相手が現れて……!?
 本書では「傲慢(ごうまん)」という言葉の孕(はら)む根源的な意味が、めまぐるしく展開する。自分は何を選択し、何を選択しないのか。人間の自意識とは、そもそも傲慢なものではないのか。自意識の塊である主人公が、なぜかリスペクトするのは「大岡越前」や「水戸黄門」のようなエンターテイメント作品だが、その対極性が創作と自意識の関係を浮き彫りにする。時折、吉増剛造の詩をサンプリングしたかのごときノイズが炸裂(さくれつ)するのだが、それらは物語に収斂(しゅうれん)せず、ひたすら併走し、ときに同期する。タイトルからしてジェーン・オースティン「高慢と偏見」を想起させ、他にもさまざまな小説や音楽からの本歌取り・再構築が並び、百花繚乱(ひゃっかりょうらん)に振動する文体だ。
 ふと、この社会を秩序だて、個々の人間の傲慢さを隠蔽(いんぺい)するシステムの数々に思い至る。個人の自由を前提としながら、情緒性や感情も既定の枠内にきれいに格納してしまうという意味では、結婚も音楽も同義なのかもしれない、などと思いつつ。
    ◇
 新潮社・1836円/たけもと・のばら 作家。著書『下妻物語』『シシリエンヌ』『米朝快談』など。



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