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偶然の日本文学―小説の面白さの復権 [著]真銅正宏

[評者]いとうせいこう(作家・クリエーター)

[掲載]2014年11月09日

[ジャンル]文芸 ノンフィクション・評伝

表紙画像

■虚構の自由めぐる論争と時代性

 現実には偶然がつきものである。偶然が日々を作り出していると言ってもいい。
 ふと駅のホームで昔の知人と会ってとか、たまたま同じバッグを持っていて話が弾んでとか、親が同郷でとか。
 しかし、それを小説に書くと途端に“嘘(うそ)くさく”、通俗的になる。そもそも虚構である小説が、偶然という現実をなぜ受け入れにくいのか。
 この疑問は私自身にとってもいまだに大テーマなのだが、横光利一はそれこそが日本の純文学の陥った「通俗」から来るとした。偶然を排除する私小説が高等なのではない。偶然を積極的に描け、と。
 本書ではその『純粋小説論』から始まり、同年の中河与一『偶然の毛鞠』を発端とした「偶然文学論争」、九鬼周造『偶然性の問題』などを取り上げながら、虚構の自由が志向される。その復権が。
 同時に筆者は、右の論文群が小林秀雄『私小説論』を含めてすべて昭和10年に発表されたことに注目し、その時代性にも触れる。刺激的だ。
    ◇
 勉誠出版・3024円

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