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哲学を回避するアメリカ知識人—プラグマティズムの系譜 [著]コーネル・ウェスト

[評者]柄谷行人(哲学者)

[掲載]2014年11月16日

[ジャンル]社会

表紙画像

■エマソンを源流に創造的民主主義へ

 著者ウェストは、ハーバード大学、プリンストン大学などで哲学・文学を教え、教会牧師であるとともに、政治的活動家であり、ラップも行う、黒人の「有機的知識人」である。本書の表題は、やや誤解を与える恐れがあるが、実は、認識論を中心にした近代ヨーロッパの「哲学」を回避して、文化批評や社会的活動に向かうアメリカ土着の哲学、つまり、プラグマティズムを意味している。
 著者はその源流をエマソンに見いだしている。事実、エマソンの「アメリカの学者」という講演は、そのことを明確に告げている。彼は思想的原理を、ヨーロッパの書物(哲学)ではなく、フロンティアに向かう日常の活動や内面に求めた。それが超越論であり、また、それがプラグマティズムになっていったといえる。これは、日本でいえば、漢意(からごころ)を斥(しりぞ)けた本居宣長に始まる「国学」に似ている。それは本来、大陸の「哲学」に対して、感情や行動を重視する柔軟な態度を意味したのである。
 むろん、それらの違いも大きい。日本の「国学」が政治的に保守的・右翼的な傾向があったのに対して、「アメリカ教」のほうは、極端な立場を斥けて中庸を説く保守思想の源泉ともなったが、概して、ラディカルであった。エマソン以来の、フロンティアを目指す楽天的な態度がそこに残っている、といえる。それは、デューイ、デュボイス、ミルズ、ニーバー、トリリングなどに見ることができる。著者は自身をそのような系譜に置いている。
 しかし、アメリカでは、思想としてのプラグマティズムはむしろ忘れられていた。それが復権してきたのは、1970年代にヨーロッパ伝来の「現代思想」が大学キャンパスを席巻するようになったことと関係がある。それに対する共感と反撥(はんぱつ)が、伝統的なプラグマティズムを蘇生させたのである。ヨーロッパから来た新思想は、旧来の哲学を批判し脱構築しようとする。だが、思えば、エマソン以来のプラグマティズムはすでに、それを実行していたのではなかったか。ローティのような保守派は、プラグマティズムをそのように再評価する。それはアメリカのナショナリズムを満たすものである。
 89年に本書を出版したとき、著者はそのようなプラグマティズム評価を斥けた。著者もヨーロッパからの新思想に批判的であったが、それは大学の外に出ることもなく、内部で煩瑣(はんさ)な議論をするだけであったからだ。そのような「哲学」を回避して社会変革に向かい、「創造的民主主義というエマソン的文化」を受けつぐのが、著者のいう「預言的プラグマティズム」である。
    ◇
 村山淳彦・堀智弘・権田建二訳、未来社・6264円/Cornel West 53年生まれ。米ユニオン神学校教授(哲学、アフリカン・アメリカン・スタディーズなど)。邦訳書に『人種の問題』『民主主義の問題』など。

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