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パンダ—ネコをかぶった珍獣 [著]倉持浩

[評者]吉岡桂子(本社編集委員)

[掲載]2014年11月16日

[ジャンル]科学・生物

表紙画像

■飼育係が観察した生態、舞台裏

 パンダは、基本的にはただのクマだ。
 上野動物園でパンダの飼育係に「意に反して」なってしまった著者の言葉に、ぐっときた。40歳になるいまも、自宅の近くや園内で虫を探しているという、動物好きでプロの曇りなき眼(め)である。
 私は2011年冬、リーリーとシンシンがふるさと四川省の静かな山奥から日本へ旅立つ前、取材した。彼らはそれぞれ中国名、比力(ビーリー)、仙女(シィエンニュ)と呼ばれていた。遊び場は、こんもりした裏山ぜんぶ。東京でがらりと変わる生活が心配になった。
 中国の「国宝」は、戦国時代の政略結婚、いや養子縁組さながらに外交色を帯びた友好の特使の役割を担う。繁殖研究を目的に貸し出すから、子作りも使命である。しかも、とかく波風が立ちやすい日中関係を思うと、彼らにとって、日本行きはアタリだったのか。
 この本を読んで安心した。
 DNAやたたずまいはクマであるいっぽう、手の骨格や腸など「珍獣」としての特性をもつパンダを、ふつうの動物としてみる抑えた愛情と好奇心にあふれていたからだ。
 手や眼などカラダの特徴やルーツ、白黒の毛並みの秘密、繁殖の舞台裏、中国での生息のようすなどがつづられている。多くの発見もある。鼻はイヌみたいにぬれている。さわると大人はブタみたい。怒るとワンとなく……。
 出産や死亡にあたってメディアの動物園に対する強引なお願いへの怒りには、反省した。日中関係の悪化で「不要説」も飛び交うが、「日々接して汗を流す者にとっては、政情も何も関係はない」。協力を続ける中国の担当者たちも同じ気持ちに違いない。
 そういえば出発をひかえて「比力!」と声をかけた私に「ぶひいいいん」と返事をした。何を言いたかったのか。教えてほしいことが次々でてくる。パンダを動物として知りたい人におすすめの本だ。
    ◇
 岩波科学ライブラリー・1620円/くらもち・ひろし 74年生まれ。上野動物園職員。『パンダもの知り大図鑑』など。

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