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フランクリン・ローズヴェルト(上・下) [著]ドリス・カーンズ・グッドウィン

[評者]保阪正康(ノンフィクション作家)

[掲載]2014年11月23日

[ジャンル]歴史 政治

表紙画像

■アメリカの苦難、夫妻で乗り越え

 本書によれば、フランクリン・ローズヴェルト元大統領とエレノア夫人は、アメリカの苦難の時期を乗り越えた同志であり、戦友といった関係のようだ。ジャーナリストのジョン・ガンサーがエレノアに「大統領は何を考えているのか」と問うと、「大統領は決して考えたりしない。決断するのです」と答えたというエピソードが紹介されているが、〈考えているのは私のほうです〉との思いがあったのかもしれない。
 ローズヴェルトは、1932年の大統領選に当選して以来、それから4期にわたって当選を続ける。3選時には、175年続いた伝統を破る出来事と評された。大恐慌の克服、ナチスドイツとの戦い、チャーチル、スターリンとの連合国結成、そして日本軍国主義を受けて立つといった20世紀の人類史の動き、アメリカ国内にあっては戦時体制への切り替え(40年にはアメリカ陸軍の軍事力は世界で18位)、公民権運動への理解、女性の地位向上など、この夫妻は誠実に、そしてひとつひとつ丹念に解決の糸口を見つけていく。根底にはローズヴェルトの歴史観や政治観があったにせよ、それを国民に説き、さまざまな場で実践してみせたエレノアの力は大きい。
 本書はあたかもローズヴェルトの評伝のように見えるが、その実エレノアがどのように夫を支えたかを具体的に検証するという意味では、むしろ「ファーストレディー物語」と言っていい。
 ローズヴェルトとエレノアは縁戚関係にあり、10代の終わりにローズヴェルトが2歳下のエレノアを見初めることから人生は始まっている。1940年5月に、ナチスがフランスなどを制圧するころから、ローズヴェルトの死(45年4月)までを、ホワイトハウスに住む大統領夫妻の動きを通して、権力内部の人間模様を描いている。当時を知る関係者86人から話を聞き、公式の史料や私信類の提供を受け、2人の恋愛やローズヴェルトの側近たちの考え方や人間像を追う。
 ローズヴェルトは下肢マヒで車椅子生活を送るが、愛人との恋愛の細部にまで筆は及ぶ。さらにチャーチルとの交流を通して歴史観の違いを浮きあがらせる。エレノアに思いを寄せる通信社記者の話なども人間臭く、この率直さが本書の魅力といっていい。
 その半面、ローズヴェルトがそれぞれの段階でどのような決断をしたのか、との歴史的分析は少ない。そこを期待して読むと必ずしも満足感は得られない。しかしローズヴェルトには、「時機を読む優れた才能」があり、エレノアには戦時下での果敢な行動力があった。2人の性格が相俟(あいま)って、時代の指導者足り得たのだろう。
    ◇
 砂村榮利子・山下淑美訳、中央公論新社・上下各4536円/Doris Kearns Goodwin 米国生まれ。ジャーナリスト。ハーバード大で博士号取得。67〜68年、ホワイトハウス・フェロー。著書『リンカン』『来年があるさ』など。本書でピュリツァー賞を受賞。

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