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肥満—梟雄(きょうゆう)—安禄山の生涯 [著]東郷隆

[評者]本郷和人(東京大学教授・日本中世史)

[掲載]2014年11月23日

[ジャンル]歴史 ノンフィクション・評伝

表紙画像

■生きるため貪り食う風雲児

 時代小説の妙手・東郷隆が、果敢に新しい分野に挑戦した。舞台は多民族国家である唐。主人公はソグドと突厥(チュルク)の血を受けた、一世の風雲児、安禄山。彼は傾国の佳人・楊貴妃とのロマンスで有名な玄宗皇帝に重く用いられ、栄達する。だが、やがて反乱を起こし、一時は帝位に即(つ)くが、破滅の道をたどる。
 日本の前近代史は(アイヌと琉球を除いて)一言語・一民族、「われわれ日本人」の盛衰を以(もっ)て語られる。故に比較的、おとなしい。一方、中国史は多数派たる漢民族の他に、遊牧民たちが時代を造形する。だから変化は激しく複雑で、権力の推移を追うことがむずかしい。ところが本書はこの難題をさらりとクリアし、その上で「生きるため貪(むさぼ)り食う」ことを自らに課した、魅力的な主人公を準備する。その力量は、ただ事ではない。
 多様な民族・宗教・文化が登場し、美姫が舞い踊る。安禄山は善も悪も、美も醜も、褒(ほう)も貶(へん)も食べ尽くす。虚々実々の物語の幕が開く。
    ◇
 エイチアンドアイ・1944円


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