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愉楽 [著]閻連科

[評者]いとうせいこう(作家・クリエーター)

[掲載]2014年11月30日

[ジャンル]文芸

表紙画像

■権力を恐れぬケタ外れの腕力

 閻連科。とんでもない腕力の作家である。もちろん創作が人間という大地を掘る力であり、想像という砲丸を限りなく遠くまで届かせる力のことだ。ユーモアが起こす笑い声の大きさ、あるいは泣き声が震わせる範囲の広大さ、共にケタ外れと言っていい。
 『愉楽』は中国河南省西部の架空の村を舞台とする。そこはもともとどの管理区域からも外れた孤立した村で、積み重なる経緯から住む者のほとんどがあらゆる身体的障害を持っている。耳が聴こえない、目が見えない、言葉をしゃべれない、足を引きずる、背丈が伸びないといった具合に。そのような人々が「四方八方の村」から「押し寄せて」来て仲良く暮らしていたのだ。
 村人は自然の豊かさを享受した。その精髄が「受活」と小説内で呼ばれる悦楽である。村の名を「受活村」という。
 このような神話的な設定の中に、閻は政治的な歴史を切れ目なく組み込む。元紅軍の女兵士で母と共に行軍していたが、孤児になった茅枝(マオジー)。所属していた軍のトップが党と分裂したために彼女は雪山をさまよい、片足が動かなくなって村を指導するに至る。
 語りは時にしゃべり言葉になり、文語になる。その法則性などどこへやら、自由自在に宙をゆく龍のごとく物語はうねり、年月を遡行(そこう)し、時におおげさで時に繊細な比喩を身にまといつつ動き回る。
 そこに支配層のわがまま、中間搾取する者たちの非道、支配される者の卑しさ、正義に忠実であろうとする茅枝が引き起こしてしまう取り返しようもない悲劇、を閻はこれでもかとちりばめる。
 例えば他作品『人民に奉仕する』では性的なシーンに共産党の政治信条をからめ、『丁庄の夢』では売血でエイズ患者だらけになった村を描き、何度も作品が発禁・販売差し止めとなってきた閻連科。彼の腕力は、巨大な中国を相手に一歩もあとへ引かない。
 他翻訳が待たれる。
    ◇
 谷川毅訳、河出書房新社・3888円/えん・れんか 58年、中国生まれ。今年、フランツ・カフカ賞を受賞。

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