日韓歴史認識問題とは何か―歴史教科書・「慰安婦」・ポピュリズム [著]木村幹

[評者]荻上チキ(「シノドス」編集長・評論家)  [掲載]2014年12月07日   [ジャンル]国際 

表紙画像 著者:木村 幹  出版社:ミネルヴァ書房

■論争史を整理する良質な地図

 どんなものであれ、「論争」を取り扱う際には注意が必要だ。論争史そのものを踏まえないと、周回遅れのコメントで議論を停滞させてしまう。論争を眺めるにも、一種の「土地勘」が必要だ。だから最初は、良質な「地図」に巡り合いたいと誰もが願う。しかし必ずしもそうはいかない。特に「歴史認識問題」は不毛な言説も多く、市場に並ぶ「地図」も玉石混交だ。そんななか、多面的な「地図」が登場したことを喜びたい。
 本書にはまず、〈「歴史認識問題」史〉の側面がある。ユニークなのは、各論点への言及回数が年代ごとに表にまとめられていることだ。
 例えば朝日新聞の記事データベースだと、戦後すぐは「東京裁判」「戦争犯罪」「戦犯」が頻出するのに対し、「靖国」はむしろ2000年代以降に多く登場する。一方、「朝鮮日報」では、80年代まであまり論点化されていなかった「強制連行」「慰安婦」といったキーワードが90年代に増加。00年代は「独島」が急増した。かように歴史認識問題の変化が、実証的に解き明かされている。
 また、〈論争当事者一覧表〉の側面もある。複数のプレーヤーが論争に参加してきた経緯が、分かりやすく紹介される。日韓の歴史認識問題は、「韓国」と「日本」が衝突しているといった大ざっぱなものではない。各国内にも多様な発言者がいることを見落としては、的確な分析や生産的な提言は出てこない。論争史や各当事者の歩みを追う体験は、外交問題を検討する上で必須の、複眼的な思考のレッスンにもなるだろう。
 なお本書は、「人権」「ジェンダー」「国際法」「史料発掘」「ナショナリズム」といった変数をあえて脇に置くことで、各プレーヤーの力学を粛々と記述することに成功している。読者諸氏には、良質な鳥瞰図(ちょうかんず)を眺めた上で、省略された各論を深掘りする旅に出てほしいと願う。
     ◇
 ミネルヴァ書房・3024円/きむら・かん 66年生まれ。神戸大大学院教授。『韓国現代史』など。


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