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本があって猫がいる [著]出久根達郎

[評者]保阪正康(ノンフィクション作家)

[掲載]2014年12月07日

[ジャンル]文芸

表紙画像

■社会の一点に据えた視点に華

 本書に、「龍馬の梅干」という短文が収められている。著者は、麺にも梅干を入れる極端な梅干好きだが、それを聞いた友人が土蔵から壺(つぼ)に入った天保6年の梅干が出てきたと届ける。坂本龍馬誕生の年だ。それを賞味、「さほど塩っぱくはない。梅の香りもない」。
 小学校5年生のときに見た乙羽信子主演の映画「どぶ」。他人の家に入り、手づかみで「白飯を食らう」場面。ひもじい世代の己の姿をかぶせる。著者の博識と感性、そして社会の一点に据えた視点、そこに本書の華がある。
 タイトル通り、著者は本と猫を愛(め)でる。とくに飼い猫パルルと犬のキキとの日常を描くエッセーが秀逸だ。パルルの12歳の誕生日を祝う光景に、著者夫妻の人生観が垣間見える。言葉のいわれにこだわる著者の、とぎすまされた言語感覚によって読者もまた新たな知識を身につける。
 「猫ババ」は、辞書の語義が違うのではないかとの見方に納得する。
     ◇
 晶文社・1728円


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