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献灯使 [著]多和田葉子

[評者]佐々木敦(批評家・早稲田大学教授)

[掲載]2014年12月14日

[ジャンル]文芸

表紙画像

■震災後の不吉な未来を予言

 本書収録の「不死の島」を最初に読んだときの、深く暗い深淵(しんえん)にたたき落とされるような衝撃は、今も忘れられない。東日本大震災と原発事故以後の時間に小説家たちがどう対峙(たいじ)するかをテーマとしたアンソロジーに、長年ドイツ在住の多和田葉子が書き送った、ごく短い作品は、それ自体が彼女がこの出来事から受け取った衝撃の強さを物語っていた。多和田が行ったのは一種の予言だった。それもこの上なく不吉な。小説家の想像力とはこれほどまでに鋭く厳しくあり得るのかと、そこに描かれた異様な光景に震えを抑えることが出来なかった。
 多和田は同一の設定のもとにその後も作品を書いてゆき、ついに一冊に纏(まと)まったのが本書である。冒頭に置かれた表題作「献灯使」が最も長い。震災後のあるとき、更なる大災厄に襲われた日本。政府は民営化され、鎖国状態に入っている。都市機能は完全に喪(うしな)われており、外来語は禁止で、インターネットも使えない。「事故」時に老齢だった人々は死ぬことがなくなり、代わりに若い世代は脆弱(ぜいじゃく)で病みやすく、すぐに死んでしまう。老人が若者を介護する社会。百歳をとうに超えた作家の義郎は、曽孫の無名と二人暮らし。無名は刻々とからだを衰えさせてゆくが、美しく賢い。やがて十五歳になった無名は、鎖国をくぐって秘(ひそ)かに海外に派遣される「献灯使」に選ばれる……。
 多和田は日本に生まれた日本人で、日本語で小説を書いている。だが彼女はベルリンに住んでおり、ドイツ語でも小説を発表している。そんな二重の存在だからこそ、日本語と日本人と日本のおそるべき未来を描いた、こんな小説を書くことが出来たのだと思う。これは予言だと先に述べた。そんなことはない、あくまでも小説でありフィクションだ、そう思うのは勝手だ。だがそう思う人だって、この本を最後まで冷静に読むことは出来まい。
    ◇
 講談社・1728円/たわだ・ようこ 60年生まれ。作家。『雪の練習生』で野間文芸賞。『雲をつかむ話』など。


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