書評・最新書評

オウリィと呼ばれたころ—終戦をはさんだ自伝物語 [著]佐藤さとる

[評者]内澤旬子(文筆家・イラストレーター)

[掲載]2014年12月14日

[ジャンル]文芸

表紙画像

■戦時下、志したファンタジー

 子ども時代、コロボックルという小指くらいの人が出てくる物語に夢中になった。自分の側(そば)にもいるのではないかとカーテンをめくってみたものだ。似たような経験を持つひとは、たくさんいるはず。
 本書は、その不朽の名ファンタジー童話を書いた、佐藤さとるの自伝物語である。
 自伝、とはいえ物語のほとんどは、昭和二十年から二年ほどの時期に割かれている。旧制中学を卒業したての十七歳。海軍に志願するものの、病気が見つかり自宅待機、空襲、北海道への疎開、そして敗戦。ふくろう(オウリィ)と呼ばれながら占領軍の兵舎で働く日々。公私ともに過酷で異常な時期であるから、鮮烈な記憶があるのだろう。けれども、ほぼ七十年も前のことを、八十六歳というご高齢で、よくもまあここまで緻密(ちみつ)に書き上げたと驚愕(きょうがく)する。空襲を避けながら北上する列車と青函連絡船の記述なぞ、恐ろしさで息が詰まる。しかもあとがきによれば当時日記もつけていなかったというではないか。
 著者の視点は、コロボックルが着る服や食べ物を細かに描いたのと似て、いかに生活していたかを緻密に描くことに徹底する。厳しく先の見えない状況下で、童話を書きたいと願い、コロボックル物語の雛型(ひながた)となる話を着想するところも、物語に出てくるエピソードのもとになる体験も、感動的に誇張せず、淡々と、暮らしに沿ってつつましやかに描かれる。それが逆に往年の読者の心を強く揺さぶる。
 評者がコロボックル物語を読んだ頃、戦争児童文学とよばれる作品が数多(あまた)出版された。それらは劇的かつ感情的に反戦を訴えかけていた。同時期に反戦とは距離を置きファンタジー童話を一貫して書き続けていた著者が今、現在になってあえて戦時下の生活を詳(つまび)らかにする。意図はないのかもしれない。けれどやっぱり今こそ戦時下の暮らしを振り返れと言われているように思えてならない。
    ◇
 理論社・1728円/さとう・さとる 28年生まれ。『だれも知らない小さな国』など数々の童話で親しまれる。


関連記事

ページトップへ戻る