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哲学散歩 [著]木田元

[評者]水無田気流(詩人・社会学者)

[掲載]2014年12月14日

[ジャンル]社会

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■強烈な個性と印象深い逸話

 今夏亡くなった哲学者によるエッセー。古代ギリシャから20世紀にいたる哲学者たちの逸話が飄々(ひょうひょう)と綴(つづ)られ、そこから思想の解説へとすんなり繋(つな)がる筆力は見事。
 たとえば、アリストテレスは同時代の人々からの評価は芳しくなかった。曰(いわ)く、体格は貧相で、人を小馬鹿にしたような顔立ち。服装も髪形も凝り過ぎで、指輪をいくつもつけて自慢していた。極めつきの悪評は、プラトンに対する「忘恩の徒」呼ばわり。だが著者は、「いつもニコニコしている人柄のいい思想家」が、世界を転覆させるような思想を提起することの方がありそうもないのでは、と擁護。もっともアリストテレス自身も、プラトンへの辛辣(しんらつ)な批判が反発を招くことは覚悟していたようだ。真理のためには師にも背くとの真摯(しんし)な姿勢は、敵も多かったに違いない。
 ショーペンハウアーは、人気作家だった母とは不仲で喧嘩(けんか)が絶えず、友人のゲーテもろとも母に階段から突き落とされたこともあった。その生い立ちのせいか、彼は大の女嫌い。自室の前で大声で話していた老女に腹を立て、階段の下まで突き落として怪我(けが)をさせ、彼女が死ぬまで毎月慰謝料を払わせられた。彼女が死んだときには、重荷からの解放を喜んだ……とは、解脱としての倫理学を探求しつつも、厭世(えんせい)に彩られた人生を象徴するかのようだ。
 強烈な個性と印象深い逸話の数々は、哲学者たちの生きた時代や人となり、さらに息遣いすら感じさせる。頁(ページ)をめくると目に浮かぶのは、白いキトンに身を包みエジプトを周遊しイデア論を構想するプラトン。エトナ火山に身を投じて青銅のサンダルを残したエンペドクレス。ダヴォスのセミナーでカッシーラーと哲学史に残る世紀の対決を演じつつ、晩餐(ばんさん)会場にはあえてスキー服のまま入り、盛装した紳士淑女の間を練り歩いたハイデガー……。歩調を合わせ、読み進めたい。
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 文芸春秋・1620円/きだ・げん 28年生まれ。哲学者。著書『現象学』『ハイデガーの思想』など。今年8月逝去。


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