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重層的地域としてのアジア—対立と共存の構図 [著]大庭三枝

[評者]吉岡桂子(本社編集委員)

[掲載]2014年12月14日

[ジャンル]社会

表紙画像

■複雑に折り重なり、「共同体」へ

 とかくアジアはややこしい。
 アジア太平洋、東アジア、東南アジア、北東アジア……。境界は幾重にも交錯する。さらに、それぞれを基盤に、アジア太平洋経済協力会議(APEC)、東アジアサミット、東南アジア諸国連合(ASEAN)などさまざまな制度が存在する。環太平洋経済連携協定(TPP)といった通商の枠組みも錯綜(さくそう)する。域外とおぼしき超大国、米国も重要な「一員」としてパワーゲームに精を出す。
 そんなややこしいアジアを、著者は「重層的地域」と呼ぶ。互いをしばるルールがゆるく、共通のビジョンがないことの証左でもある。
 とはいえ、欧州ほど明確ではないにせよ、アジアでも安定と繁栄の実現には政策を含めた協調を得策とする考えでは一致している。決定的な争いを避け、全体の利益を図る経験も積んできた。大国でも一国の利益を目的に一方的に押し切れる状況にはない。つまり、一緒にいることに政治的な意思を共有する「地域」が複雑に折り重なり合いながらうまれている。
 こうした認識に立ち、本書はつづられている。ぼんやりとした輪郭ながらもしぶとく「地域共同体」へ向かいつつあるとみて、冷戦期から現在までの流れを子細に分析する。域内の大国、日中の不仲もあってASEANを軸に、日米中や豪州などが合従連衡や牽制(けんせい)しあいながら、「地域」のありようが固められていく力学にも詳しい。台頭する中国が新しい秩序作りを唱えはじめ、近隣への強硬な外交が目立つことを指摘、均衡のゆらぎも予感させている。
 長く圧倒的な経済力をもっていた日本は、アジアの一員という意識が微妙だった。「われわれ」として共存できる「地域」作りに向けて、どんな役割を果たせるのか。その覚悟を問う本書には、重要性が増す多国間外交を考えるヒントが詰まっている。
    ◇
 有斐閣・4212円/おおば・みえ 68年生まれ。東京理科大学教授(国際関係論)。


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