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狂講—深井志道軒—トトントン、とんだ江戸の講釈師 [著]斎田作楽

[評者]いとうせいこう(作家・クリエーター)

[掲載]2014年12月14日

[ジャンル]ノンフィクション・評伝

表紙画像

■権威も良識も笑いのめした男

 深井志道軒の名前は、浅草で付き合いの長い人たちからよく聞いている。18世紀中盤、浅草寺の境内によしず張りをし、軍談を講釈した。
 フツーの講釈師ではなかった。書名にも「狂講」とある通り、話は筋道から外れ、その過激な社会批判と猥談(わいだん)ゆえに僧侶と女性は顔をそむけた。
 だがその「フリートーク」が「歌舞伎役者二世市川団十郎(海老蔵)と天下の人気を二分した」と本書にもある。よくわからない男根状の棒を持って「トトントントン」と机をたたいてみせた男が江戸のスターなのだ。
 著者はこの人物のあらゆる記録を一冊にまとめあげた。
 だが、真実は薄闇に包まれている。種々の伝説をまとって姿をくらまし続ける志道軒は、歴史の中でも“狂講”をしているように見える。その煙幕は奇跡的な術だ。
 こうやって権威と戦い、良識を笑え。そのメッセージが伝わってくることだけが確かである。トトントントンという音が耳元に聞こえてくる。
    ◇
 平凡社・3024円


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