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敗者の身ぶり―ポスト占領期の日本映画 [著]中村秀之

[評者]吉岡桂子(本社編集委員)

[掲載]2015年01月11日

[ジャンル]アート・ファッション・芸能

表紙画像

■重みを消化しようとするしぐさ

 あの時代の日本社会の空気を知りたくて、手に取った。映画は、新聞の縮刷版とは違うにおいの歴史を見せてくれると思ったからだ。
 この本は、日本が第2次世界大戦の敗戦後、連合国の占領から脱した1952年前後に作られた日本映画を、登場人物の視線や表情、しぐさから論じたものである。小津安二郎の「晩春」「麦秋」、黒澤明の「生きる」「七人の侍」「生きものの記録」、谷口千吉の「赤線基地」、成瀬巳喜男の「浮雲」などをとりあげている。
 著者は、サンフランシスコ講和条約の発効による日本の「独立」を、米国の世界戦略への「従属」の始まりと認識する。本書が扱うポスト占領期の映画を通じても晴れやかさよりも、のしかかる重みを消化しようともがく姿を凝視する。セリフを伴わない「身ぶり」を丹念に追い、言葉として紡ぎだす。
 原節子の正座に、日本的な絆にからめとられる女性をみる。仰ぎ見る「エノケン」からは、見上げる小さな者と見上げられた大きな存在を感じとる。「伴淳」が出演する「二等兵物語」の笑いと涙は、情けない男たちによる敗北を許し、葛藤に満ちた過酷な過去を慰めに変える符号と読み解く。そうして、記憶を書き換えながら高度経済成長に向かって国民に再び統合を促した、と。
 映画に潜む「とらえがたい歴史の夜を取り集めて未知の世界を創り出す」力が、著者によって引き出されていく。見ている作品であれば、自らの記憶や解釈と比べながら読みすすめる楽しみがある。見ていなくても、映画を通してある時代を集中して考えることで、現実の歴史に向き合うための想像力を鍛えられる。
 スクリーンに限らず、大事なことは大声で語られず、どこかにこっそりと隠れているかもしれない。自分だけでは気づかなかった世界へと案内してくれる本だ。
    ◇
 岩波書店・3456円/なかむら・ひでゆき 55年生まれ。立教大学教授(映画研究)。『映像/言説の文化社会学』など。

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