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日本型クリエイティブ・サービスの時代 [編]小林潔司、原良憲、山内裕

[評者]諸富徹(京都大学教授・経済学)

[掲載]2015年01月11日

[ジャンル]経済

表紙画像

■生産者と消費者が「価値共創」

 きわめて斬新な経営学書だ。本書は、先進国経済の中で重要性を増す「サービス」に着目し、目に見えず、触ることもできない非物質的な「創造的価値」の創出過程を、明瞭な言語と概念で、初めて我々の目の前で解き明かす。
 本書最大のメッセージは、「日本型の創造的価値の本質は、『価値共創』にある」というものだ。世界市場を相手にする製品とサービスは標準化と普遍性を追求する半面、場所性、歴史性、そして文化性を削(そ)ぎ落とす。対して日本旅館や江戸前鮨(ずし)などの日本型クリエイティブ・サービスは、サービスの提供される「場」、そして生産者と消費者が共有する歴史・文化等の「コンテクスト」を重視する。そして創造的価値は、生産者と消費者の長期にわたる相互作用から生み出され、両者の切磋琢磨(せっさたくま)を通じて高められる。
 挑戦的課題は、こうした「創造的価値」が、海外への展開可能性をもち、製造業へも適用可能か否かという点にある。この点で著者たちは、(1)クリエイティブ・サービスの特徴である個別性、同時性を多少犠牲にしても海外マスマーケットを狙う日本茶の伊藤園、(2)北米進出を果たしても規模を追わず、「香」という製品にまつわる歴史性、文化性を重視し、それを理解してくれる客層を開拓する松栄堂、(3)日本人の繊細な味覚との価値共創過程で鍛え上げた高品質ウイスキーで世界的評価を得たサントリー、の3事例分析に基づいて「それは可能だ」と回答する。
 重要なのは、日本人には暗黙の了解事項であった「コンテクスト」を言語化し、海外の文脈に合わせて移転することだ。そして「コンテクスト」を理解し、その価値を評価できる消費者を育て、現地で彼らとの新しい価値共創プロセスを創出することが、製品・サービスを鍛え上げる。ここに我々は、日本の産業発展の将来像に関する多くのヒントを見いだせるだろう。
    ◇
 日本評論社・3456円/小林と原は京都大学経営管理大学院教授。山内は同講師。


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