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鳥たち [著]よしもとばなな

[評者]横尾忠則(美術家)

[掲載]2015年01月18日

[ジャンル]文芸

表紙画像

■磁石のように魂を引き合う2人

 この物語は惑星の内部が空洞になっている世界でのできごとのように僕は空想する。空洞の内部の壁には駅前も並木道も、2人の思い出のシャスタやサンフランシスコ、セドナの地もしっかりへばりついている。そんな世界の一角に2人の恋人「まこ」と「嵯峨」が磁石のように魂を引き合いながら生きている。
 2人は子供時代に複雑な環境のもと無二一体の関係を運命的に強いられる。ある時期、2人は2人の母親とアリゾナのセドナに住んでいたが互いの母親が1人の神秘主義者に惹(ひ)かれ、嵯峨の母は男の病死と共に自らも命を絶つ。さらに取り残されたまこの母も後追い自殺。もともと父親不在の幼い2人は長い年月の末、今ではパン職人と演劇女子大生だが、まこは一種の理想主義者で70年代前後のカリフォルニアのニューエイジと通底しており、スピリチュアルな、ある種、意識の弱さのような部分に自らの重い過去を背負わせている。
 嵯峨を愛し続けるまこが欲しいのは嵯峨の赤ちゃんだが、なかなか授からない。そんな2人はいつも鳥を追っている。2人にとって鳥は幸せの象徴であり祈りの対象?
 読者の僕は2人の成り行きにかったるくなる。が、そんな時、まこが学ぶ教授が出てきて「特定の時代の影響を受けすぎてる、現代に生きろ」とやんわり諭す。そう、過去の物語を背負いすぎている。早くいまと解け合ってもらいたいと思わず願いたくなる。
 まこが彼女の子宮内空洞に嵯峨の子供を孕(はら)んだ時、シャスタ山のように空洞の内外の世界が幻ではなく現実でひとつになるだろう。その時、僕もこの物語の鳥たちの一羽になって、2人の世界を俯瞰(ふかん)してみたい。まこの憧れる神聖なシャスタ山は空洞内と外部の世界の通路である。いつかシャスタで出会った老人の霊が2人を、過去といまの物語をひとつに結びつけてくれるに違いない。
    ◇
 集英社・1404円/64年生まれ。87年、「キッチン」で海燕新人文学賞を受賞しデビュー。『アムリタ』など。

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