書評・最新書評

病いの共同体―ハンセン病療養所における患者文化の生成と変容 [著]青山陽子

[評者]原武史(放送大学教授・政治思想史)

[掲載]2015年01月18日

[ジャンル]政治 社会

表紙画像

■「みんな」に奉仕する自治会

 西武池袋線と西武新宿線にはさまれた東京都の西東京市から東村山市にかけての一帯には、独特の風景が広がっている。関東ローム層の堆積(たいせき)する平坦(へいたん)な台地に、大団地や結核療養所を母体とする病院が点在している。国立のハンセン病療養所、多磨全生園(たまぜんしょうえん)もこの地域にある。
 多磨全生園は、療養所である点では結核療養所と似ており、隔離された患者たちが暮らす集合住宅が何棟も建てられた点では団地と似ている。本書は、この療養所で患者たちが長年にわたりどのような文化を形成してきたのかを、多くの元患者へのインタビューを積み重ねることで初めて浮き彫りにした。
 療養所内の最大の生活組織が患者自治会である。自治会は、執行委員会、評議委員会などからなる本格的なもので、執行委員会の下には厚生部、文化部などが置かれていた。すべての患者が入会するこの組織には広範な権限があり、療養所長をはじめとする施設との交渉に当たった。自治会の役員となった患者は、「みんなの奉仕者」として献身的に働いたという。
 本書によれば、患者自治会と施設側の間には、概して良好な関係が保たれていた。患者が騒動を起こしたことは、戦前の一時期を除いてなかった。この点は、隣接する結核療養所の患者自治会に日本共産党が進出し、自治会が療養所の経営管理まで行ったのとは異なる。その背景には、ハンセン病療養所の方に皇室からの手厚い「仁慈」があったことが挙げられよう。
 1950年代後半以降、療養所の周辺には大団地が建てられてゆく。こうした団地に結成される自治会との比較も興味深い。患者自治会の組織は、団地自治会の組織を先取りしているように見えるからだ。ハンセン病患者というフィルターを外してみると、多磨全生園にも西武沿線の風土が反映していることを、本書は教えてくれる。
    ◇
 新曜社・3888円/あおやま・ようこ 成蹊大他非常勤講師。主な論文に「地域生活支援の現場で働く」など。

関連記事

ページトップへ戻る