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ジョン・レディ・ブラック―近代日本ジャーナリズムの先駆者 [著]奥武則

[評者]保阪正康(ノンフィクション作家)

[掲載]2015年01月18日

[ジャンル]政治 社会

表紙画像

■日本語新聞を創刊した英国人

 本書を読み進むうちに、ジョン・レディ・ブラックという英国人の生き方に強い共感がわいてくる。ジャーナリズム史研究者はこの新聞人の名を知るだろうが、一般にはほとんど知られていない。
 しかし明治期の新聞人やジャーナリズムの先達たちは、この英国人を先覚者の一人に加えている。著者もそのことで関心をもったという。ブラックはスコットランドの地域社会では名門の家に生まれ、学校教育のあと、オーストラリアにわたる。実業家として成功するが、やがて歌手に転じ、インド、上海などを回り、長崎にやってくる。このエネルギッシュな人物に、近代日本の新聞事業に名を残す英国人経営者が目をつけ新聞事業に引き込むのである。
 ブラックには新聞編集の才能があったのか、幾つかの新聞編集を手伝ったのちに英字紙「ジャパン・ヘラルド」の主筆になって日本の政治・外交を論じる。「攘夷(じょうい)」という思想は、西欧人を「夷狄(いてき)」として蔑(さげす)む考え方であり、これは西欧人の「尊厳」を傷つけると、長州藩と四国艦隊の下関戦争について論陣を張る。「日本はいまや歴史の新しい時代に入った」と書いた社説など、幕府に対する擁護論も展開している。
 1872年に日本語新聞「日新真事誌」を創刊し、日本人による新聞と一線を画して高級紙をめざす。さらに「ファー・イースト」でフォト・ジャーナリズムに手を広げ、写真によって日本社会を知らしめる役割を果たしている。ブラックには日本を故国イギリスと同様の文明国にとの思いもあったというのだ。
 しかし明治政府が新聞の規制、弾圧に乗りだしてから、陰謀まがいの方法でブラックはその立場を追われる。著者はイギリスでの研究者生活中からブラックに関する資料を集め、出身地を訪ねて著述を進めた。無念の思いで眠る一人の新聞人の息づかいが頁(ページ)をめくるごとに感じられる。
    ◇
 岩波書店・7344円/おく・たけのり 47年生まれ。法政大教授(ジャーナリズム史)。『大衆新聞と国民国家』など。

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