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「妄想彼女—頭の中で作りあげた僕の恋人」書評 セルフシャッターの天国と地獄

評者: 内澤旬子 / 朝⽇新聞掲載:2015年01月25日
妄想彼女 頭の中で作りあげた僕の恋人 著者:地主 恵亮 出版社:鉄人社 ジャンル:小説・文学

ISBN: 9784865370188
発売⽇: 2014/10/01
サイズ: 21cm/125p

妄想彼女—頭の中で作りあげた僕の恋人 [著]地主恵亮

 恋人との幸せそうな写真をSNSに載せて自慢したい。現実には恋人どころか友達も少ないほぼ無職男性。かわいらしい女性と出会い、恋人となり、一緒に暮らし……という妄想を膨らませ、手にマニキュアを塗り、女性用カツラや三脚などを駆使して、あたかも彼女とデートしているような擬装写真を撮る。
 本書の上段には仮想恋人との幸せそうな写真と微笑(ほほえ)ましいラブストーリーが、そして平行して下段には理想とかけ離れた現実の寒々しい状況と写真術の種明かしが綿々と明かされる。まさに天国と地獄。
 街中でひとりカツラを抱きしめながらセルフシャッターを押す姿は、ホラーじみていて猛烈に気持ち悪い。が、たくさん見せられるうちに滑稽も通り越し、なぜか応援したくなってくるのは、本人が妄想世界に飛ばず、現実の自分から目をそらさず客観的視点を維持しているからだろう。妄想は平和に孤独を癒やす。うまく使えば人生の強い味方となる。とはいえ奇書である。
    ◇
 鉄人社・1296円