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サラバ!(上・下) [著]西加奈子

[評者]佐々木敦(批評家・早稲田大学教授)

[掲載]2015年02月01日

[ジャンル]文芸

表紙画像

■波瀾万丈、自伝的「和解」の物語

 サラバとは、日本語の「さらば」とアラビア語の「マッサラーマ(さようなら)」を掛け合わせて、この小説の語り手である「僕」こと圷(あくつ)(のちに今橋)歩と、彼が小学生の時に家族で住んでいたエジプトで親友になったヤコブが、別れ際に交わしていた合言葉、それはいつしか「魔術的な言葉」になっていった。西加奈子の直木賞受賞作は、この言葉を題名に据えた波瀾(はらん)万丈の大作である。
 「僕」は1977年に、父親の赴任先イランで生まれた。姉は幼い頃から大変な問題児で、「僕」は内心迷惑がっている。79年のイラン革命によって、いったん一家は帰国して大阪に住んだが、やがてエジプトに赴く。突然、両親が離婚することになり、母親に引き取られて日本に戻った「僕」は、東京の大学に進学して独り暮らしを始める。姉の変人ぶりは、ますます増していく。母親は新たな恋愛に夢中だ。父親は出家して僧侶になってしまう。大阪で世話になった「矢田のおばちゃん」が「サトラコヲモンサマ」という謎の宗教(?)を興し、姉も深く関わっていく。そんな家族からは距離を置き、「僕」は売れっ子ライターとして人生を謳歌(おうか)するのだが……物語は「僕」が37歳を迎えた2014年まで続く。1995年も2011年も、重要な年として描かれる。そして、すべての出来事の後ろで「サラバ!」が響いている。
 「僕」の経歴は、作者自身とよく似ている。むろんこれは自伝ではあるまい。けれども、この小説が「僕」の長い時間をかけた和解の物語であり、その「和解」の相手とは、第一に姉、それから母、父、そして彼自身であること、また「この小説は何故書かれたのか」が重要なテーマであることを思えば、自伝的と呼ぶことは許されるのではないか。『サラバ!』は小説家生活十周年を迎えた西加奈子の、自伝的な傑作である。
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 小学館・各1728円/にし・かなこ 77年生まれ。作家。『ふくわらい』『舞台』など。本作で第152回直木賞。

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