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冬を待つ城 [著]安部龍太郎 鳳雛の夢 [著]上田秀人

[評者]本郷和人(東京大学教授・日本中世史)

[掲載]2015年02月01日

[ジャンル]歴史

表紙画像

■奥州の大義求める苦難の戦い

 東北の戦いの歴史は、苦い。「征夷(せいい)」大将軍・坂上田村麻呂の侵攻、源頼義・義家父子による前九年の役、鎌倉武士が大挙して押し寄せた平泉の討滅、豊臣秀吉の「奥州仕置(しおき)(征服)」、錦の御旗を翻す官軍に敗れた戊辰戦争。中央権力は東北の自由を許さず、いつも屈従を強いてきた。このうち、秀吉の「奥州仕置」をテーマにする時代小説が、前後して2冊刊行された。
 まず安部龍太郎氏の『冬を待つ城』。天正19(1591)年、秀吉に敢然と反旗を翻し、15万の大軍に包囲されて滅んだ九戸政実(くのへまさざね)(南部氏の一族)を描く。主人公は政実の弟、久慈政則(くじまさのり)。彼の目を通して、九戸城(岩手県二戸市)に立てこもる政実の、どう見ても無謀な戦いの真相が次第に明らかになる。
 政実は、私利私欲から判断を誤ったのではない。「奥州の大義」のために命を懸けたのだ。一方で、これを滅ぼそうとする豊臣政権の側にも、特別な思惑があった。普通、秀吉による天下統一の総仕上げ、といわれるこの戦いは、実は朝鮮出兵を見据えてのものだった……。著者による謎ときの秀逸さに、何度もうならされる一冊である。
 政実の知名度は高くないが、伊達政宗の名は歴史好きなら誰もが知る。彼の活躍と苦難を描くのが、上田秀人『鳳雛の夢』。生母に愛されず、父と弟を犠牲にしながら、政宗はひとり覇業を歩む。その彼に仕え、親友のように、時に兄のように、支え続けたのが片倉小十郎であった。
 二人の夢。それは「奥州制覇」、そして奥州の自立。強大な中央政権が二人の前に立ちはだかる。だが政宗は夢をあきらめない。秀吉・徳川家康、二人の天下人と渡り合いながら、彼はいかにして伊達家を、また東北を守り抜いたのか。周知のように、政宗と小十郎の夢はかなわなかった。けれども著者のけれんのない筆致は、とてもすがすがしい読後感を与えてくれる。
    ◇
 『冬を待つ城』新潮社・2160円/あべ・りゅうたろう、『鳳雛の夢』光文社・2052円/うえだ・ひでと

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