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ハリウッド・スターはなぜこの宗教にはまるのか [著]ジョン・スウィーニー

[評者]荻上チキ(「シノドス」編集長・評論家)

[掲載]2015年02月22日

[ジャンル]ノンフィクション・評伝

表紙画像

■困惑にじむ、貴重な取材報告

 はやりの自己啓発書みたいなタイトルだけれど、原題は「恐怖の教会」(The Church of Fear)。サイエントロジー教会という新興宗教に対する取材経験をつづったルポだ。
 ちょっと邦題詐欺のようなところがあって、トム・クルーズやジョン・トラボルタといった名だたるハリウッドスターがこの宗教に「なぜはまるのか」という理由は解き明かされていない。けれど、貴重な取材報告であることは間違いない。
 アメリカのSF作家、L・ロン・ハバードがつくったこの宗教は、精神医学を否定し、独自の歴史観を有している。7500万年前、銀河連合の長である「ジヌー」は、セイタンと呼ばれる生命体を地球に送り、火山の中で水素爆弾を用いて吹き飛ばした。その際に散った魂により人類は汚されている。ある段階までたどり着いた信者だけがこの真実を知ることができるが、そうでない者には徹底的に伏せられる。
 著者はBBCのドキュメンタリー番組のリポーターとして、幹部や脱退者に話を聞き、教義の内容や、内部で行われた暴力事例について尋ねていく。教会の全容が分かるわけではない。だが、異様さは伝わってくる。
 著者を激高させようとあおり、カメラを向ける信者たち。教会の命令で尾行してくる信者や私立探偵。脱退者の一人は本書で、教義について「お粗末なSF」と表現したが、著者の体験もなかなかだ。ちなみに終盤で、教会の元スポークスマンが、教会内での暴力の存在や、著者への尾行の事実、混乱を誘うためにあおる手法も認めている。
 時系列通りにルポが進まない構成のせいもあるが、読後にはとらえどころのなさが残る。それはおそらく、取材体験を通じて著者が感じた「困惑」が、そのまま本書に託されているからだろう。
     ◇
 栗原泉訳、亜紀書房・2376円/John Sweeney 英紙オブザーバーを経てBBC記者。昨年、同局を退職。

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