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日本経済の構造変化―長期停滞からなぜ抜け出せないのか [著]須藤時仁、野村容康

[評者]諸富徹(京都大学教授・経済学)

[掲載]2015年02月22日

[ジャンル]経済

表紙画像

■税制による所得再分配強化を

 日本経済の構造と問題点を、長期的な視点から実証的に解き明かしてくれる好著だ。読者は、目の前の霧が晴れる気分を味わうだろう。
 まず本書は、日本経済の長期停滞要因として、GDPの約6割を占める消費低迷を指摘、その背景に1970年代後半以降、雇用者報酬の伸び率が一貫して低下し、98年以降はマイナスとなった事実を明らかにする。その原因が「産業構造の転換」と「労働分配率の抑制」だとして分析を進める点に、本書の特徴がある。
 進行する「経済のサービス化」で、第3次産業は付加価値額と従業者数で経済全体の約6割を占める。ところが機械化が難しいため、その労働生産性の伸び率は低いのが実情だ。したがって、その従業員の所得もなかなか伸びない。産業構造転換で第3次産業の比重が高まれば高まるほど、日本経済全体として生産性上昇が鈍り、所得も伸び悩むという構図があらわになる。
 それに加えて本書は、労働生産性の上昇にもかかわらず労働分配率が抑制されたのに、他方で、資本分配率は資本生産性の低下にもかかわらず維持されたことを指摘する。ところが90年代以降、資本収益は実物投資に回らず、留保利潤として企業内部に溜(た)め込まれ、それを原資として「株主還元」が手厚く行われるようになったのだ。
 問題は、こうした傾向がマクロ経済を結局、縮小均衡に陥らせている点にある。現在の株高の演出は、たしかに株式を保有する資産家層を潤わせて高額消費を喚起するが、マクロ経済を動かすには規模が小さい。そして、何よりも勤労者と資産家層の格差を拡大させる。重要なのは、労働生産性改善に見合った適正な雇用者報酬の引き上げだ。これこそが消費を動かし、マクロ経済を活性化させる。本書がこの視点から、税制による所得再分配の強化を説いている点は、今後の税制改革論議にとって傾聴に値する。
    ◇
 岩波書店・2700円/須藤氏は62年生まれ、独協大教授(マクロ経済学)。野村氏は70年生まれ、独協大教授(財政学)。

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