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零戦の子―伝説の猛将・亀井凱夫とその兄弟 [著]武田頼政

[評者]保阪正康(ノンフィクション作家)

[掲載]2015年02月22日

[ジャンル]ノンフィクション・評伝

表紙画像

■三者三様の昭和史を丹念に追う

 昭和初年代から10年代に各様の生き方をした兄弟伝である。長男の亀井貫一郎は外務官僚から無産運動に転じて政治家に、次男の凱夫(よしお)は海軍軍人になり零戦のパイロットとして歴戦の勇士に、兄弟の妹の夫は大蔵官僚で戦時経済を担う毛里英於菟(ひでおと)、3人の昭和史を本書は丹念に追う。
 もともとは1944年8月に戦死した凱夫の日記や家人にあてた手紙などをもとに、一軍人の内面心理を描くのが狙いだったという。ところが凱夫には風がわりな兄や、企画院で政策立案に携わった義弟がいることに気づき、筆の幅が一気に広がる。
 凱夫の残した手記の中にある「今次の戦時の戦訓」の2点(補給の重要性、艦隊至上主義への自省)は実戦体験者の貴重な提言、無産政党から国家社会主義へ転向する貫一郎の文明観、企画院の三羽烏(がらす)の一人といわれた毛里の東西対立を予想しての戦後観、3兄弟の辿(たど)りつく地点は確かに独自の歴史観を内包していて興味深い。
    ◇
 文芸春秋・1998円


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