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少女のための秘密の聖書 [著]鹿島田真希

[評者]いとうせいこう(作家・クリエーター)

[掲載]2015年02月22日

[ジャンル]文芸

表紙画像

■女性たちが血肉化した矛盾

 一人の少女がいて、中学1年生で思春期で、血のつながらない父と血のつながった母と暮らし、裏のアパートの店子である浪人生の青年の部屋へ、彼が滞納している家賃を取りに行く。青年はパンティー泥棒だと噂(うわさ)されている。
 「お兄さん」と呼ばれる青年は、訪ねてきた少女に旧約聖書の話をする。少女は月に一度ずつ、創世神話やモーセの出エジプト、さまようイスラエルの民のことを知り、自分の周囲の世界との比較をしながら、彼女なりのとても肉感的な理解を進めていく。
 義理の父は性的ないたずらを仕掛けてくる。母は女であることを枠組みとして押しつけてくる。やがて現れる一人の少年は、少女に暴力的な言葉を吐くことで世界の曖昧(あいまい)なベールを切断してみせる。
 女からの、それも少女からの聖書。理不尽な「父」の命令の中で、女性たちが血肉化し、ひとつの体に受け止め、食べ尽くしてきた矛盾。
 鹿島田記、というべき言葉の顕(あらわ)れが本書である。
    ◇
 新潮社・1728円


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