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文体の科学 [著]山本貴光

[評者]佐倉統(東京大学大学院情報学環長・科学技術社会論)

[掲載]2015年03月01日

[ジャンル]人文

表紙画像

■文章の生態系に肉薄する野心作

 大学浪人時に通っていた予備校の国語の先生が、こんなことを言っていた。単語と単語の関係についての規則、つまり文法は、だいぶ体系化されているが、文と文の関係についての規則は、まだほとんど手つかずだ。これを明確に考えることが、読解力を高めることに他ならない、と。目から鱗(うろこ)がバリバリと落ちた。
 本書は、この問題に肉薄した野心作である。法律、科学論文、辞書、批評、小説など、さまざまなジャンルの文体を取り上げ、ばっさばっさと解剖していく。厳密に比較考量するというより、文体を肴(さかな)にして、文章によるコミュニケーションのあり方を自由に論じるエッセイ風論稿といった趣である。あなたが本好き、文章好きであれば、著者の博識と、インターネットを駆使する技術の華麗さに誘われ、文体の海で快適に遊ぶことができよう。
 辞書と法律文書と科学論文が、いずれも、書かれている内容の普遍性を担保するために主語を明確にしない文体を採用しているという指摘も興味深い。一見なんのつながりもない文章たちが、実は知識の生態系の中でよく似た位置を占めていることが、こんなところに表れている。
 また、文章のスタイルだけでなく、媒体である書物や携帯端末の形とか、そこに配置されている文章のレイアウトなども考察の対象にしていて、目を引く。文章についての文体論と、テキスト・レイアウトについてのデザイン論とを融合しようという、果敢で華麗なる挑戦。
 雑誌などの誌面の写真は、もう少し大きくしてほしかった(字が読めない)。そのほか、個々の話題に対する掘り下げをもっと読みたい気もするし、対象の広がりという点でも、カタログや取り扱い説明書なども含めてほしかったとも思う。だが、これはあくまでも「序説」なのだ。文体の科学はまだ緒に就いたばかりだ。今後の発展に期待しよう。
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 新潮社・2052円/やまもと・たかみつ 71年生まれ。文筆家、ゲーム作家、ブックナビゲーター。共著『心脳問題』など。

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