書評・最新書評

過剰診断—健康診断があなたを病気にする [著]H・ギルバート・ウェルチ、リサ・M・シュワルツ、スティーヴン・ウォロシン

[評者]保阪正康(ノンフィクション作家)

[掲載]2015年03月01日

[ジャンル]医学・福祉

表紙画像

■生命観なく医療現場が肥大化

 本書は過剰診断を、「決して症状が出たり、そのために死んだりしない人を、病気であると診断すること」と定義づける。ところが、この過剰診断が現代医療の場でどれほど行われているのか、実態はなかなかつかめないという。
 3人の著者(いずれも医学部教授)はアメリカの医療現場での体験をもとに分析していく。たとえば検査数値などにより、高血圧、前立腺がん、糖尿病、胆石、乳がんなど、幾つかの病についての過剰診断は容易にわかる。軽症の高血圧などはその例で、1997年以前は治療の対象外であった。ところが高血圧に関するアメリカ合同委員会が数値の見直しを行い、軽症の患者全員に薬物治療を行うよう強く主張するようになった。その結果、新たに1300万人もが要治療の高血圧患者になったという。
 さらにアメリカでは毎年25万人が乳がんと診断されるが、これは乳がんで亡くなる人の6倍に及んでいる。非喫煙の女性にとって、乳がんは最も心配ながんだと著者たちは言いつつ、ここにも「過剰診断の可能性があるのではないか」と指摘している。
 アメリカの医療技術や医療サービスは優れているのに、過剰診断のシステムがなぜ生まれるのか、本書は具体的に読者に知らせる。製薬資本が背景にあるからといった教条的な見方ではなく、「早期発見は常によいことだという社会的通念」や「(画像)検査により、医者はあらゆる種類の異常を見つける」といった理由が考えられるというのだ。医療に対して明確な信念がない、つまりアメリカ現代社会には生命観がなく、医療現場が肥大化していると医療の送り手側は見ている。
 将来、ゲノムスキャン(遺伝子検査)によって各人の疾病予測が可能になると、心理的負担により過剰診断は増大していく。これが健康な社会かとの問いは日本でも正面から論じられるべきだ。
    ◇
 北澤京子訳、筑摩書房・1836円/H.G.Welch, L.M.Schwartz, S.Woloshin いずれも米ダートマス大学教授。

関連記事

ページトップへ戻る