書評・最新書評

オカザキ・ジャーナル/レアリティーズ [著]岡崎京子

[評者]水無田気流(詩人・社会学者)

[掲載]2015年03月08日

[ジャンル]アート・ファッション・芸能 ノンフィクション・評伝

表紙画像

■この時代を射貫く空気感の塊

 河川敷で殺害された中学生のやりきれないニュースを聞き、岡崎京子の『リバーズ・エッジ』(1994年)を思った。表層と内実のずれ、一見平穏な日常に潜む過酷な現実……それらを、岡崎はウィリアム・ギブスンの詩の一節を引き、「平坦(へいたん)な戦場」と呼んだ。あれから約20年経ち、漫画の中で放置されていた隠喩のような死体は、現実の中学生の悪夢となった。96年、日本社会にいよいよバブル後の低迷感が浸透した時期に事故で活動を休止した岡崎は、今の日本をどのようにながめているのだろうか……。
 この2冊は、「戦場」に至る岡崎の、貴重な道程である。『オカザキ・ジャーナル』は、91年から92年までのエッセイ、ならびに宗教人類学者・植島啓司との刺激的な化学反応を見せる往復通信を収録。八〇年代を「“解体と終焉(しゅうえん)、それに対する期待と待機”の時代」と呼び、「『平成』と『九〇年代』という解体と終焉にさえ見はなされた時代にどっこいそれでも私たちは生きています」と語る。鍵は「どっこいそれでも」にあり、と。海の向こうの戦争と、日常のピンチ、資本主義やメディア、旅行や買い物を並置していく岡崎の言葉。時代固有のものたちが、やがて時代を穿(うが)ち、突き立ってくる。
 『レアリティーズ』は、初期の未完成作品など、荒削りだがその分奇妙に鋭く時代をスライスしていく作品集。切られてちぎれて跳ねていくのは、性、愛、音楽、映画、文学、暴力……色とりどり。インディーズバンドのデモテープのように低密度な絵柄から繰り出される現実への接近戦は、軽くて薄くてせつなくて、でも爆発力は十分。女の子たちの堕落の果てに待つ有終の美を、せつなく魅惑的に、そして残酷に描く視点は、ずっと通底していたのだと確信する。やがて結実した「岡崎京子」を知る人も知らない人も、この時代を射貫く空気感の塊に触れてほしい。
    ◇
 『オカザキ・ジャーナル』平凡社・1728円、『レアリティーズ』同・1512円/おかざき・きょうこ 63年生まれ。

関連記事

ページトップへ戻る