書評・最新書評

日本木造遺産—千年の建築を旅する [著]藤森照信、藤塚光政

[評者]隈研吾(建築家・東京大学教授)

[掲載]2015年03月08日

[ジャンル]アート・ファッション・芸能

表紙画像

■「木というナマモノ」を宣言

 木造建築が突如ナマモノに感じられて、ドキドキした。
 木造建築は日本の宝である。世界を見渡しても、日本の木造技術は段違いであり、そのレベルが保たれていることに、たびたび驚かされる。
 しかし、この日本の木造のすごさ、その迫力の本質を伝える本が、今までなかった。木造建築に限った話ではないが、建築を伝える本といえば、昔は、様式論であった。書院造(しょいんづくり)対数奇屋造(すきやづくり)、といったグルーピングをして、特徴を記述するのである。
 様式論の次に、日本建築を構成で語る時代があった。日本の伝統建築と、20世紀ヨーロッパで生まれたモダニズム建築とが、ともに面と線のシンプルで美しい構成をベースにしているという論法である。日本でモダニズム建築がはやり始めた1950—60年代にこの構成論がはやった。最近、写真集などで話題になった『TANGE BY TANGE 1949—1959』は、モダニズムのエース丹下健三自身が、構成論的な見方で桂離宮の白と黒の美しいデザインを写真におさめている。
 その後80年代のポストモダニズム期には、桂離宮を華やかな装飾の集合体とする論も出た。時代によって、日本建築が違って見えたのである。
 そして、今、日本建築は様式でも構成でも装飾でもなく、ナマモノになったと、この本が宣言している。木というナマモノに雨や雪が降り、刻々と姿が変わって、まるで生き物である。様式論、構成論の時代とはレベルの違う高解像度がナマさを引き出している。藤塚は、小さなブツの撮影から始めて、インテリアを撮り、建築に到達したユニークな写真家で、その動物的な目で木造建築をブツとしてとらえた。撮影現場でナマモノが刻々と変化していく様子の藤塚自身によるレポートも、ナマモノのこわさを伝える。藤森は大歴史家であったはずなのに、ここでは子供のようにナマモノとたわむれる。
    ◇
 世界文化社・2700円/ふじもり・てるのぶ 建築史家・建築家/ふじつか・みつまさ 写真家。

関連記事

ページトップへ戻る