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たまきはる [著]神藏美子

[評者]内澤旬子(文筆家・イラストレーター)

[掲載]2015年03月15日

[ジャンル]アート・ファッション・芸能

表紙画像

■愛という業 隠さず、手放さず

 今から十年くらい前のことだろうか。写真家の神藏さんにお会いしたときに「次のテーマは神様」と打ち明けられ、しばらく言葉がでてこなかった。
 写真は、目に見えるものしか映すことができないと思っているわけではない。けれども見えないどころか、自分の言葉で語ることすらとても難しい、宗教を、神を撮ると?
 前作の「たまもの」の中にある、彼女の前の結婚相手と今の結婚相手が、にこやかに並び写る、その現場にたまたま居合わせた縁で、彼女に会い、作品を手にして、一気に魅せられた。既婚の女性が別の男性と恋に墜(お)ち、夫との別れを決断し、新しい相手と生きることを選ぶまでの懊悩(おうのう)が、写真と文章で綴(つづ)られていた。生々しいけれども、露悪的ではなく、愛を隠さないことを隠さずに伝える姿に、ひたすら圧倒された。
 どうやって神様を撮るの?と思わず聞いたのだったか。そのときの彼女は本当になんの方策も見通しもなさそうで、全然わからないのと微笑(ほほえ)まれ、また度肝を抜かれた。
 彼女ならば、それでも撮ってしまうのだろう。見当もつかないが、どんなに時間がかかっても、その間目立った活動が伝わってこなくても、ずっと確信していた。ただ時間が経てば経つだけ重圧がかかるはず。それは私の想像を超える苦しみだったようだ。
 聖書を読み、イエスの方舟の千石剛賢(たけよし)に会い、田中小実昌の父の教会跡を訪ねる。彼女は愚直に、貪欲(どんよく)に神様を求め、苦しむ。父親をはじめとする親しいひとたちの死。そして軋(きし)む夫、末井昭との関係。
 業とも言い換えられる愛情の深さを、彼女はやっぱり隠さず、手放さず、荒ぶる自意識をさらけ出し、言葉を紡ぐ。
 極私的な交友や活動の断片のような写真のすべてに映っているのは、神様を、愛を乞う彼女のまなざし。読み終える頃にはきっと愛する人の幸せを、祈りたくなる。心から。
    ◇
 リトル・モア・3240円/かみくら・よしこ 『たまゆら』(マガジンハウス)、『たまもの』(筑摩書房)。

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