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日本まんが〈壱〜参〉 [編著]荒俣宏

[評者]水無田気流(詩人・社会学者)

[掲載]2015年03月22日

[ジャンル]政治 社会

表紙画像

■生きた歴史語る、巨人たちの肉声

 一大表現ジャンルとなった「日本まんが」。だが、誕生から変遷に至る道筋は平坦(へいたん)ではなく、下位文化としての逆風にさらされてきた。今日のような隆盛を可能にしたのは、描き手の才能と熱意、そして読者の圧倒的な支持である。本書は、この日本まんがの立役者たちが語る、生きた歴史書である。歴史が浅いジャンルゆえに、黎明期(れいめいき)の巨人たちの肉声を聞くことができる幸運に感謝したい。
 冒頭に指南役として登場するまんが史研究家・清水勲編では、古今東西のまんが表現の変遷や社会背景が明確になる。とりわけ、江戸時代の浮世絵や黄表紙、『北斎漫画』のような戯画本などの源流と、文明開化による西洋まんがの輸入、新聞などマスメディアの隆盛との関係は興味深い。個人的には、福沢諭吉もまんがの原作を書いていたとの話は衝撃的であったが、民主化を進める上で、まんがの可能性を理解していたからに違いない。風刺画のように権力を脱臼させる手段としても有効である。
 描き手の戦争や戦後復興期の体験が日本まんがに与えた影響について再認させられたのは、やなせたかし、水木しげる、松本零士らとの対談だ。やなせ編では、『アンパンマン』はもともと大人向けであり、作家自身、子ども向けの作品は描けないと明言しての作品だったと語られる。俗悪だと絵本評論家に酷評されたとも。だが、戦争体験と倫理への問いから生まれ、透徹した風刺精神から従来のヒーロー像を覆したアンパンマンは、子どもたちの人気者となった。
 水木は戦後、生活のために貸本まんがを量産したという。まんが市場が貸本から出版社へと移行する歴史的転換期に、「鬼太郎」シリーズが立ち会った。松本の陸軍パイロットだった父の話も、強烈な印象を放つ。戦後公職追放となった父を頼らず、高校時代からまんがを描いて学費を稼ぎ、戦後社会を生き抜きながら鋭く観察した目線には圧倒される。
 他にも、戦後日本の男性性を形作るにあたり、少なからず影響を与えたちばてつや、さいとう・たかを、平田弘史、バロン吉元。異彩を放つみなもと太郎に水野英子。少女まんがの巨星、里中満智子、竹宮惠子、萩尾望都、高橋真琴、さらに少女恐怖まんがを語る楳図かずお……。里中の「状況に泣く女の子」ではなく、「自分で考えて生きて、決心できる女の子」を描きたかったとの談話は力強い。萩尾の性規範や家族像の転倒に彩られた作品の根底にある、共同体への問いも深く静かで、強靱(きょうじん)。
 彼らの情熱を、同じ熱量をもって受け止める編著者の力量にも感服する。今この瞬間も生成しつづける日本まんがの源流を語る、熱い、熱い本である。
    ◇
 東海大学出版部・各3780円/あらまた・ひろし 47年生まれ。作家・翻訳家・博物学者・図像学者・幻想文学研究家・路上観察学会会員・妖怪評論家。主な著書に『世界大博物図鑑』『ファンタスティック12』、小説『帝都物語』シリーズなどがある。

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