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猪変 [編]中国新聞取材班

[評者]内澤旬子(文筆家・イラストレーター)

[掲載]2015年03月22日

[ジャンル]文芸

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■海を渡る厄介者、苦闘今なお

 昨年秋ごろ。瀬戸内海を泳ぐ猪(いのしし)の映像が全国ニュースで流れた。コミカルな音楽付きで、女性アナウンサーの「微笑(ほほえ)ましい」といわんばかりの口調に、気が遠くなった。
 海を泳ぐ猪の姿は、都会の住人には健気(けなげ)でかわいく映る。けれど、瀬戸内の島に住む者にとっては、疫病神上陸警報でもある。昨夏小豆島に移住したばかりの私には、どちらの気持ちもわかる。小豆島では疫病で絶滅したはずの猪が、ここ4、5年で増え始めている。
 本書の元となる連載が中国新聞で始まったのは2002年。中国地方はもともと猪の多い地域で、猟も盛んだった。90年代ごろから猪が山から里に下り、田畑を激しく荒らし、とうとう芸予諸島を泳ぎ渡る姿が目撃されたことを受け、企画された。
 そもそも何故急に増え始めたのか、生息数や被害額はどう数えているのか、昔と今とで何がどう違うのか、高齢化が進む地方で里山の荒廃にどう対応するか、海外ではどうしているのか、獲(と)れた肉の活用がなぜ広まらないのか。湧き上がる疑問をひとつひとつ潰すように各地を訪ねて回り、データを集め検証。
 野生獣との関わり、特に狩猟は、各町村どころか集落や個人ごとに独自のやり方を踏襲してきた。猪は研究者も少なく、生態もわかっていないことが多いまま、各自治体も、ハンターも、住民たちも、ほぼ無手勝流に、場当たり的に対峙(たいじ)してきた様子が浮かび上がり、驚かされる。
 地域で対策(税金の使い途〈みち〉とも言える)が違って当然だ。しかしそろそろ本書のような(中国地方中心とはいえ)各地の成果を比較検討する、マクロな視点を共有したい。いまだに猪の害に苦しむ地域は一向に減っていないのだから。
 やみくもに殺すだけでも、可愛がるだけでもない、自然との関わり方の今後を模索するために、地方/都会、どちらの人にも読んでほしい。
 評・内澤旬子(文筆家・イラストレーター)
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 本の雑誌社・1728円/ちゅうごくしんぶんしゅざいはん 02年12月から約半年にわたり中国新聞朝刊で連載。

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