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蒙古襲来 [著]服部英雄

[評者]本郷和人(東京大学教授・日本中世史)

[掲載]2015年03月22日

[ジャンル]歴史

表紙画像

■「神風」が吹いたのは真実か

 私の師、中世史家・石井進がもっとも愛した弟子がこの本の著者・服部英雄である。地域に密着しての綿密な取材には定評があり、著書は数々の賞に輝く。その彼が日本が体験した数少ない外国との戦いの一つ、元寇(げんこう)の解析に挑む。
 元寇研究には、石清水(いわしみず)八幡宮の周辺で作成された『八幡愚童訓(はちまんぐどうくん)』を用いるのが従来のやり方であった。だが著者はこの史料を欺瞞(ぎまん)に満ちたものとして斥(しりぞ)け、貴族・藤原兼仲(かねなか)の日記『勘仲記(かんちゅうき)』、従軍した武士たちが記した文書(軍忠状〈ぐんちゅうじょう〉と称する)、また竹崎季長(たけざきすえなが)が描かせた絵巻物『蒙古襲来絵詞(えことば)』を分析の基軸に据えた。
 蒙古軍は文永11(1274)年10月20日に初めて来襲するが、その翌日には退却した、と言われてきた。だが本書によると、7日ほどの戦いがあり、そこに嵐があって退却していった、という。また蒙古の船団は900艘(そう)と記されるが、著者独自の計算によれば、実際には112艘という数字が妥当である。
 元寇は二回あり、文永の役の後に弘安の役が起きるが、この時も暴風雨があった。本の帯には「『神風』が吹いた。果たして、それは真実か」とあるが、本書は暴風雨の存在自体を否定するものではないらしい。弘安の役に際してのそれは、日本軍にも被害をもたらした自然災害であった。
 ともかく迫力に満ちた本であり、賞賛を集めるのだろう。だが学問的「突っ込みどころ」は多い。何より冒頭で、フビライの出兵意図を、十分な根拠も示さず「日本の硫黄が欲しかったため」と決めつけたのには驚いた。
 元は伝統的な華夷(かい)秩序の樹立を望んだ。だから幕府が対応を誤らなければ元寇はなかった、というのが主流学説ではなかったか。だが硫黄の入手を切望していたなら、攻撃は不可避だったことになる。
 大事なのは神風の有無か、元寇の目的を東アジア情勢の中で考えることか。本書は考察の力点を誤っていまいか。
    ◇
 山川出版社・2592円/はっとり・ひでお 49年生まれ。九州大学教授(日本中世史)。『河原ノ者・非人・秀吉』など。

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