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朝鮮と日本に生きる―済州島から猪飼野へ [著]金時鐘

[評者]

[掲載]2015年03月29日

[ジャンル]ノンフィクション・評伝

表紙画像

 八紘一宇(はっこういちう)という言葉が、亡霊のように国会に現れた。日本統治下の朝鮮で育った著者は、その八紘一宇のためなら特攻隊員にもなろうという皇国少年だった。皇民化教育でハングルも満足に書けない。日本の敗戦は「天がひっくり返った夏の記憶」となる。戦後の1948年に済州島で起きた「四・三事件」に関わり、親も国も捨てて日本へ渡り、在日朝鮮人として生きてきた。86歳の詩人の凄絶(せいぜつ)な回想記だ。密航船が日本の領海に入ると、青酸カリの赤い薬包を海に捨てた。そんな細部の記憶が生々しい。
 あとがきに「具体的にはまだまだ明かせないことをかかえている私」とある。詩人が見た闇は深いが、その闇と真摯(しんし)に向きあう姿に心打たれる。
    ◇
 岩波新書・929円

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