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フューチャー・オブ・マインド―心の未来を科学する [著]ミチオ・カク

[評者]佐々木敦(批評家・早稲田大学教授)

[掲載]2015年03月29日

[ジャンル]科学・生物

表紙画像

■科学の力で「超能力」も現実に?

 「ひもの場の理論」で知られる理論物理学者のミチオ・カクは、先端科学の達成を一般向けにわかりやすく解説するノンフィクションを旺盛に執筆してきた。『サイエンス・インポッシブル』は、SF小説の世界が刻々と実現しつつある現状をリポートしたものだったが、本書が取り上げるのは「心」の未来。心や意識と呼ばれている何かが、如何(いか)にして生じているのか、そもそもそれは「在る」と言えるのか、長々とした哲学的論議が存在するが、本書はあくまでも現実の科学に即して、心をめぐるテクノロジーがどこまで来ているかを軽快な筆致で記してゆく。
 ブレークスルーは脳科学である。MRIをはじめとする最新の脳スキャン技術によって、心と脳がどのように繋(つな)がっているかを具体的に検証することが可能になった。そうして得られた研究成果にコンピューターの飛躍的な進化が掛け合わされれば、テレパシーやテレキネシス(念力)などと呼ばれてきた「超能力」が現実のものとなる。けっして絵空事ではない。たとえば四肢麻痺(まひ)患者にとって、この技術は奇跡にも相当する。口に出さなくとも会話が出来て、思うだけで物が動かせる未来は、すぐそこまで、いや、もうここまで来ている。著者はそこから更に飛躍して、夢や記憶のスキャン、AI(人工知能)の行き着く果て、意識と脳の分離、エイリアン(異星人)の心まで論じていく。
 インターネットもスマートフォンも、昔から見たら完全にSFのガジェットである。だが私たちは今やそれらをごく普通に使っている。本書で描かれる「心の未来像」も、出発点になっているのが実際の科学技術である以上、どれほど荒唐無稽に思えようと、数十年後には実現されているかもしれない。だとすれば後の問題は、それが明るい未来なのか、ということだろう。超能力であれ科学技術であれ、それを使うのは人間である。
    ◇
 斉藤隆央訳、NHK出版・2700円/Michio Kaku ニューヨーク市立大学理論物理学教授。『超空間』など。

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