岩井三四二「三成の不思議なる条々」書評 浮かび上がる関ケ原合戦の本質
評者: 本郷和人
/ 朝⽇新聞掲載:2015年03月29日
三成の不思議なる条々
著者:岩井 三四二
出版社:光文社
ジャンル:小説・文学
ISBN: 9784334929862
発売⽇: 2015/01/15
サイズ: 20cm/361p
三成の不思議なる条々 [著]岩井三四二
ある人が、日本橋の筆の立つ町人に頼みこんだ。天下分け目の関ケ原合戦をレポートしてくれ、と。真の依頼主の名は明かせない。表面的なことではなく、事の実相を何とか聞き出してもらいたい。
町人は様々な人物を訪ね、西軍の実質的な主将・石田三成について聞き取りを行う。いかなる人物だったのか。なぜ主将になれたのか。どんな戦略を構想していたのか。そして三成と徳川家康、道理はどちらにあったのか。
関ケ原を生きた人たちとの問答の中で、戦いの本質が浮かび上がってくる。同時に敗北し滅びていった、三成という人物が見えてくる。それはどんなものだったか。それから、依頼主はだれか。彼の目的とは何か。……ああ、ここでバラしてしまいたい。
歴史屋である私は、著者が大好き。隙のない歴史小説を書く人だから。初歩的なミスなどあり得ず、常にしっかり。本作品もその通り。堅牢でいて、おもしろい。安心して岩井ワールドに遊んでほしい。
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光文社・1836円