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生活合理化と家庭の近代—全国友の会による「カイゼン」と『婦人之友』 [著]小関孝子

[評者]武田徹(評論家・ジャーナリスト)

[掲載]2015年04月05日

[ジャンル]社会

表紙画像

■家庭が奉仕すべき「公共」とは

 本書が議論の対象とする「全国友の会」は雑誌「婦人之友」の読者を中心に1930年に結成された歴史ある女性組織だ。だが創設者の羽仁もと子が信仰の有無や理念の共有にこだわらず、支部ごとの自主的運営を尊重したために全体像の把握が難しく、本格的な考察がまたれていた。
 著者は「生活合理化」という概念に注目し、旗幟(きし)が必ずしも鮮明ではない「友の会」の輪郭を描き出そうとする。
 第2次大戦前の「友の会」は産業界に広まる合理化の気運と歩調を合わせ、知識階級の妻たちが家庭生活の合理化を啓蒙(けいもう)する拠点となった。
 戦後の高度経済成長期になるとサラリーマンの妻たちが家庭生活の改善を競いあうサークル活動へと会の性格は変わってゆくが、家事のムダを徹底的に省こうとする妻の姿を見たトヨタ自動車の大野耐一氏が後に「カイゼン」の名で世界的に知られる生産効率化の着想を得たという「伝説」の存在は、「友の会」の合理化追求が社会の規範でもあり得た事情をうかがわせる。
 消費社会化が進むと世帯単位で生活を合理化する志向は薄れ始め、80年代以降、「友の会」の入会者数は減少してゆく。だが、ひとたび震災などが起きれば全国ネットワークを通じて物資を集め、会員施設「友の家」を拠点に炊き出しに腕前をふるうなど手際のよい支援活動を展開。その実力を示して来た。
 なお、公共奉仕ということでは、「友の会」が日中戦争開戦後に国家総動員体制を支えるべく献身的に協力していた史実も著者はきちんと拾い上げている。言うまでもないことだが、奉仕すべき「公共」とは市民社会であり、時の政権の政策ではない。こうして「公共」とは何かをきちんと定義する作業を怠っていると、家庭は再び国家主義の暴走を許す温床になりかねない。「友の会」の歴史をたどった本書から、そんな危うさについても学ぶべきだろう。
    ◇
 勁草書房・3240円/おぜき・たかこ 71年生まれ。一般社団法人社会デザイン研究所特別研究員。

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