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ぼくが映画ファンだった頃 [著]和田誠

[評者]細野晴臣(音楽家)

[掲載]2015年04月05日

[ジャンル]アート・ファッション・芸能

表紙画像

■映画の快楽伝える記憶の蓄積

 どこの町にも映画館があった頃、映画というものは単なる娯楽を超え、20世紀文化の華であった。劇場まで足を運んで見るという行為が、映画産業という枠組みにとっては必須だったが、映画館が激減した現在、シネマ・コンプレックスという今どきのシステムに戸惑う映画ファンは部屋でDVD鑑賞にひたる。
 この変化が「映画文化」を揺るがしてから久しい。著者自身も劇場に行かなくなり、「映画ファンであることを放棄した」と言う。映画を映画館でしか見ることのできない時代、映像を記憶に刻むことが「映画体験」であり、それはいい作品があったからこそできた。1940年代、グローバル化する前のハリウッドにはまだ映画各社の「社風」があり、面白い映画を作る創意を競い合っていた。
 そんな黄金時代の映画を享受できた楽しさが本書から伝わってくる。MGMのライオンや20世紀フォックスのサーチライトなど、映画会社のロゴにさえワクワクしたという著者の喜びはぼくにも共感でき、自分の映画にまつわる記憶を呼び起こしてくれる。
 映画の記憶が「色彩につながっている」というのも新鮮だ。イラストレーターで映画を4本監督した著者らしく、映画の楽しさは、誰もが知る20世紀の名作や硬軟織り交ぜた膨大な数の映画を、解説ではなく、その目と耳で楽しんだ心象から語られる。また、その視線は映画の構図や伏線にも向けられ、ぼくもよく見たMGMのミュージカルでさえ、その細部の記憶には追いつくことができない。
 「放棄」したとはいえ、それでもやはり「映画ファン」という姿勢は全編に貫かれ、映画に対するオマージュには圧倒される。映画史に残る日本の名士との交流記やジェームス・スチュワートとの対談も希少。まさに映画ファンになるための極上の手引書ではないだろうか。映画ファンが高じればプロになるのだ。
    ◇
 七つ森書館・2160円/わだ・まこと 36年生まれ。イラストレーター、映画監督。『シネマ今昔問答』など。

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