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老耄と哲学―思うままに [著]梅原猛

[評者]横尾忠則(美術家)

[掲載]2015年04月12日

[ジャンル]文芸

表紙画像

■遊びと自由と笑い、原動力に

 有象無象、森羅万象、永久不変の造化を著者の驚異の好奇心に巻き込んで、ぐるぐる回転させる万華鏡を覗(のぞ)いているような言葉と思想を、23年間、新聞のコラムに連載し、今年90歳を迎えた著者の、このシリーズ10冊目の本。
 僕はこの目眩(めくるめ)く言語空間の中で常に想像的刺激を養ってきた読者の一人で、このシリーズを哲学の書であると同時に芸術の書として、「ドラクロアの日記」と共に愛読してきた。
 西洋哲学では人類を導けないと直観した著者は、40歳を過ぎてから日本文化の中核思想として「草木国土悉皆成仏(そうもくこくどしっかいじょうぶつ)」なる仏教思想で、西洋の人間中心の思想を脱し、「新しい人類哲学」を打ち立てながら、西洋の哲学体系に挑むべく、その対決のさまは本書にも随所に見て取れる。
 以上の理念に発心し、すでに年月が経つが、その間にも著者は小説、戯曲をはじめスーパー歌舞伎、スーパー狂言、スーパー能などを書き、芸術家の顔を貫きながら、その絶えざる意欲と好奇心は、すでに「老耄(ろうもう)」の域を飛び越えており、想像力は神がかり的で天の助力によってか霊力が増す一方。「古都に棲(す)む怪物」以外の何者でもない。
 著者の数々の名著は本人の言葉を借りるまでもなく「天から降りてきた霊感によって書かされたもの」である。普遍的な芸術はおおむね霊感によって生まれるもので、従って芸術家は予言者であると同時に、霊媒的な資質を有する。
 そして驚くのは著者が長命であることだ。夫人の「仕事をやめて!」という願いを無視。健康を心配される夫人だが、創造エネルギーが燃焼を止めない限り、精神的肉体的にも長寿を約束される。
 著者の場合、創造的行為に内在する遊びと自由と笑いがその原動力で、また夫婦円満の秘訣(ひけつ)でもある。梅原哲学が笑いの絶えない家庭薬であり、家庭こそが哲学の生まれる場所なのかもしれない。
    ◇
 文芸春秋・1998円/うめはら・たけし 25年生まれ。哲学者、国際日本文化研究センター顧問。


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