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それを愛とは呼ばず [著]桜木紫乃

[評者]

[掲載]2015年04月12日

[ジャンル]文芸

表紙画像

 妻を失(な)くし、仕事を追われて故郷から逃れてきた男54歳。故郷を出て東京で夢見た女優の道を絶たれた女29歳。ありふれた出会いだったはずの二人だが、最後の数ページになっても、どう展開するのかわからないほどの緊密さで、どこにもない「ある愛の形」を描く。女の純粋さを受けとめきれない男の純粋さが交錯して、やがて、同じ方向を歩もうとしたかにみえた瞬間、作者は衝撃の結末を用意した。女の望んだのは、過去でも未来でもない、今、目の前にある「ささやかな幸福」だ。そして、それを永遠に閉じ込めようとした無謀な試みを人は「愛とは呼ばない」。しかし、読者は、ページを閉じたとき、「それも愛だ」と呼ぶだろう。
    ◇
 幻冬舎・1512円


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