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恋する文化人類学者―結婚を通して異文化を理解する [著]鈴木裕之

[評者]佐倉統(東京大学大学院情報学環長・科学技術社会論)

[掲載]2015年04月12日

[ジャンル]人文

表紙画像

■学問の掟破り的暴挙が面白い

 学問は客観的で普遍的な知識の体系を目指している。そこから得られる展望はとても豊かなものがあるのだけど、普遍的であるが故に、日々の生活や個別の実感とは結びつかないことも多い。学問が進めば進むほど、そういう傾向が強くなっていくので、専門外の人からしたら、学問なんて自分たちとは関係ないものなんだな、つまらないな、ということになってしまう。
 こうして、世に言う科学離れや反知性主義がじわじわと広がってくる。つまり学問とはその成り立ちからして必然的に、発展すればするほど人々から背を向けられ、反感を買う宿命にあるものなのだ。
 この、学問の宿痾(しゅくあ)に敢然と立ち向かったのが、著者の鈴木裕之だ。西アフリカでストリート音楽を研究する文化人類学者である彼は、調査をしている間に現地のスター歌手と恋仲になり、結婚する。そしてなんと、「私の結婚物語」を「文化人類学」という客観的学術体系で読み解き、解説するという、学問の掟(おきて)破り的暴挙に出たのである。
 掟破りだから、これはもう、めちゃくちゃ面白い。結婚についてだけでなく、〈私〉とは何なのか? 民族とは? 国家とは?……など、文化人類学の(ということは今の時代を考えるための)重要な概念を次々と考察していくので、波瀾(はらん)万丈、破顔一笑の物語を楽しく読み進んでいくうちに、自然と文化人類学の基礎が身についている(かもしれない)。マニアックな参考文献案内も読み応えがある。
 だけど、結婚については詳しく描写されているのに、書名に反して、どんな恋愛をして、どういった気持ちだったのかは、ほとんどなにも描かれていない。これはどうしたことか。当事者からの報告には常に情報の偏りが潜んでいるという、これまた文化人類学の原則を示しているのか。
 この先、『家庭をもつ文化人類学者』などの続編が登場するのだろうか。楽しみだ。
    ◇
 世界思想社・2376円/すずき・ひろゆき 国士舘大学教授。著書『ストリートの歌』など。


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