書評・最新書評

裏が、幸せ。 [著]酒井順子

[評者]武田徹(評論家・ジャーナリスト)

[掲載]2015年04月12日

[ジャンル]文芸

表紙画像

■日本海側から価値観の転回迫る

 近代日本は国民国家として統合されるのと同時に「表」と「裏」の分断を経験した。重工業中心の国土開発から取り残されがちだった日本海側、いわゆる裏日本は雪に閉ざされる冬の厳しさもあり、過疎化を深めた地域も多い。
 しかし、そんな日本海沿岸を旅行して現地の人々と交わり、それぞれの地に縁のある人物の生きざまや文学作品に触れた著者は、改めて「裏」の魅力に惹(ひ)かれ始める。
 それは弱者に同情する「判官びいき」ではない。たとえば輪島塗の漆器には暗さの中でこそ浮かび上がる美がある。光よりも陰翳(いんえい)を味わおうとするその感性は、輝かしい未来を無邪気に夢見た経済成長期を終え、限りある条件の中での成熟を目指すことになるこれからの日本に必要なものだろうと著者は指摘する。
 折しも北陸新幹線開通とタイミングが一致。親しみやすい文体も相まって観光指南書として楽しく読めるが、実は価値観の本質的な転回を迫る野心的な一冊でもある。
    ◇
 小学館・1620円


関連記事

ページトップへ戻る