書評・最新書評

恋するソマリア [著]高野秀行

[評者]三浦しをん(作家)

[掲載]2015年04月19日

[ジャンル]社会 ノンフィクション・評伝

表紙画像

■異文化と通じた瞬間、深い喜び

 アフリカ東部のソマリア連邦共和国は、無政府状態が二十年以上つづき、「ソマリランド」「プントランド」「南部ソマリア」に分裂していた(現在も、ソマリランドは事実上独立国家らしい)。いずれも、ソマリ語を話すソマリ人が大多数を占める土地だ。
 ソマリ人がどういうひとたちで、どんな暮らしを送っているのか、詳しい現状はほとんど報じられない。しかし著者は、ソマリ人とソマリ社会に魅せられ、複雑怪奇なソマリ語を習得して、現地での取材を行っている。
 とはいえ本書は、決して堅苦しい内容ではない。著者はソマリの文化や実情を知りたくてならず、恋愛のごとき情熱をもってアタックするのだが、ソマリ人は独立独歩かつ喧嘩(けんか)っぱやく、情に厚くて合理的という、なんかようわからん破天荒なお人柄。こちらの常識などまるで通じず、著者の「恋心」はむなしく空回りすることも多い。結果、本書では爆笑の珍道中が繰り広げられる。
 あれよあれよというまに、著者が戦闘の前線地帯に案内されてしまう場面は、本書の白眉(はくび)だろう。緊迫感と呑気(のんき)さが絶妙にブレンドされたソマリ人の言動と、折悪(おりあ)しく襲来した「恐怖の大王(=超弩級〈ちょうどきゅう〉の便秘)」に振りまわされる著者の姿に、腹の皮がよじれた。なにしろ前線なので、笑いごとじゃない事態も勃発するのだが、その顛末(てんまつ)はぜひ実際にお読みいただきたい。
 ほかにも、ソマリの家庭料理を教えてもらったり、長老が語る「妻とのなれそめ」を聞いたり(胸が熱くなる、驚きのエピソードだ)、人々の魅力が活写され、愉快な旅の時間がページからきらきらあふれてくるかのようだ。
 ソマリ社会に恋して悔いなし。自分とは異なるひとがいるからこそ、世界は輝き、通じあえた瞬間の深い喜びも生まれるのだ。体当たりで悪戦苦闘する著者の姿は、そう物語っているように思えた。
    ◇
 集英社・1728円/たかの・ひでゆき 66年生まれ。作家。『謎の独立国家ソマリランド』で講談社ノンフィクション賞。

関連記事

ページトップへ戻る