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帰還兵はなぜ自殺するのか [著]デイヴィッド・フィンケル

[評者]保阪正康(ノンフィクション作家)

[掲載]2015年04月26日

[ジャンル]社会

表紙画像

■戦闘ストレスの悲劇、鮮烈に

 アフガニスタンとイラクに派兵された米軍兵士は約200万人、そのうち50万人はPTSD(心的外傷後ストレス障害)とTBI(外傷性脳損傷)に悩まされている。派兵前は善良な市民だったのに一転して社会生活についていけなくなり、精神障害、暴力、薬物中毒に陥り、毎年240人以上が自殺している。
 ワシントン・ポスト紙の元記者である著者は、こうした戦闘ストレスに悩む元兵士たち、その家族、さらにはペンタゴン(米国防総省)の自殺防止会議の調査報告にふれながら、この悲劇の実態はどのようなものか、具体的に鮮烈に記述していく。戦争には勝者も敗者もないとの現実を知り、言葉を失う。錯乱気味の元兵士は「イラクで死んでいればよかった、というようなこと」をつぶやくといい、「罪悪感。悪い夫だ、悪い父親だ、絶望。二十九歳なのに九十歳のような気持ちだ。不名誉だ。彼の心は吠(ほ)えている」と、その心情が描写される。著者は戦闘ストレスと必死に抗(あらが)う元兵士に寄り添いながら、その苦悩を現代社会に正確に伝えようとの姿勢に徹する。
 とくに5人の元兵士とその家族を中心に、数多くのエピソードが語られるが、その筆は過剰な表現を避けている分、問題の深刻さがわかる。戦死した夫への思いを、妻が「完璧な男」と題して綴(つづ)った37項目は、家族がどれほど苦しんだかを示す。第2次大戦から戻った父親にいわれなく殴打されて育った少年が、やがて「アメリカ初の復員軍人向け居住型療養プログラム」を作った経緯などに、辛うじて救いも見いだす。
 自殺防止会議に毎月報告される自殺のケース(個々の内容も紹介されている)から、陸軍副参謀長はどのような教訓を学ぶかを模索する。その会議の模様を伝える筆調はより意図的にクールである。
 今の日本でもっとも読まれるべき書というのが率直な読後感だ。
    ◇
 古屋美登里訳、亜紀書房・2484円/David Finkel/ジャーナリスト。イラク戦争の従軍兵をバグダッドでも取材。

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