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「共倒れ」社会を超えて—生の無条件の肯定へ! [著]野崎泰伸

[評者]武田徹(評論家・ジャーナリスト)

[掲載]2015年04月26日

[ジャンル]社会

表紙画像

■生命に優劣つけていませんか

 船が沈没しつつある。救命ボートには乗船者全員が乗れない。で、どうするか。
 サンデルの「白熱教室」が契機となったのか、生死を分ける極限状況を想定した思考実験を最近よく見かける。
 著者はそうした傾向に批判的だ。全員が助からないのなら、より有為な人材が優先的に救助されるべきだとする功利主義的判断がそこでは導かれがち。それは裏を返せば障害者のように生産力に乏しい人間は救われなくても仕方がないとみなすことでもある。思考実験はそうした思考パターンを予習させ、定着させかねない。
 そうではなく、生命という交換不可能なものを「有為な」人材の生命と交換するために差し出す「犠牲」の構造自体を問題視すべきではないか。現実に厳しい選別がありえることは著者も認めるが、それをただ受け入れるだけでなく、全員が救命ボートに乗れるような社会作りになぜ挑まないのかと訴える。
 弱者と彼らを支える者が共倒れを強いられることなく、誰もが豊かに共生できる社会を作るためには「生の無条件の肯定」が必要。そう考えて独自の障害学を展開してきた著者が本書で改めて「ですます」調の敬体を採用した思いも受け止めたい。
 たとえば「生命の尊厳」は常套句(じょうとうく)だが、生命と尊厳は常にセットなのではない。尊厳のある生命とない生命が実は区別されており、後者へ至る経路を、死をもって断つのが尊厳死なのだ。いつしか生命に優劣をつける思考に自らが染まっていた読者は、こうした指摘に目から鱗(うろこ)が落ちる思いがするだろう。
 で、どうするか。責任(レスポンシビリティ)とは応答(レスポンス)に始まるとする説も著者は紹介している。著者の考える正義にかなった社会を実現するための倫理を噛(か)んで含めるごとく丁寧に伝える本書にどう応答するか。読者の責任が問われている。
    ◇
 筑摩選書・1620円/のざき・やすのぶ 73年生まれ。立命館大非常勤講師(倫理学、障害者問題)。

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